泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第29話>
<第29回>
「えー、明日—? 今から休めるかなぁ……。ううん、なんとかする! 店長に聞いてみるね」
私物籠から自分専用のマグカップとハーブティーのティーバッグを取り出していると、背中で甘えた声がする。
あまりにも楽しそうに彼氏と電話しているこの子は、前のうららちゃんによく似ていた。彼氏依存だろうか。
鏡と睨めっこし、延々とファンデーションを塗っているあの子は、ドラッグ依存かもしれない。頬のこけ方が、そういう感じ。
壁にもたれて座って、何もせずに生気のない目をじっと見開いてる子もいる。どこからどう見ても精神不安定そう。ちゃんと接客できればいいけれど。
顔と名前が一致しない新人さんたちは、かなりの曲者ぞろいらしい。うららちゃんが自分の足で歩き出し、雨音さんが昼の世界で生きる決意を固め、すみれさんの騒動が過去のものになり始めても、次から次へと問題まみれの女の子が入ってくる。やれやれ。
どんな問題を背負っていてもいい。ここにいるうちに、少しでも風俗嬢として成長してくれたら。
その成長が、人間としての成長に繋がれば……。
何より、稼ぐことだ。稼いだお金が、それぞれの問題を解決する糧になる。
10分時計の針が進んだのを確かめ、待機室を出る。面接室のドアをノックすると中から朝倉さんが開けてくれる。テーブルの上には提出したシフト表が、バインダーに挟んで置いてある。
「今度、沙和に講習をお願いしたい子がいるんだ。今週いつか、早く来れる日ないか?」
この前ケンカ別れしてしまった以来で、わたしは少し気まずい。こんな時でもいたっていつも通り振る舞うのが、朝倉さんらしいけど。
「そうね……。木曜日と、金曜日なら」
オープンからラストまで予約で埋まることが多いわたしの場合、講習するには店の営業時間前に出勤しないといけない。そうまでしてわたしに講習させたいのは、朝倉さんがよほど見込んだ子に限られる。そう、知依ちゃんみたいに。
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