泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第41話>
<第41回>
お父さんが病室のベッドで息を引き取った直後、お母さんにずっと胸に仕舞っていたその話をした。お母さんは娘のかつての恋人の事故死は知っていたけれど、その真相までは当然、その時まで知らなかった。
「好きにしなさい、もう」
突き放した言い方じゃなくて投げやりじゃなくて、優しく苦笑いして、お母さんは言った。
本当はそんなこと絶対に思うわけないのに……。
ねぇ、あなた。
目を瞑ったまま、頭の上でキンモクセイの木立を震わせる風の音に耳を澄ませ、彼に語り掛ける。
わたしね、今でも風俗は別に悪い仕事じゃないって思ってる。あなたはあんなにわたしをなじり、仕事を辞めさせようとしたけれど、これからもその信念は変わらないよ。迷うことがあっても嫌になることがあっても、確かに信じるものがあるから。わたしはこれからも、風俗で生き続けるよ。
でもね、いい悪いは別として。
大切な人を、かけがえのない人を、傷つけてしまう仕事ではあるよね。
いくらまっすぐに輝く信念でも、誰かと相いれないことで苦しみが生まれるから。
そして今もわたしは、たった1人の親であるお母さんにあなたと同じ思いをさせてしまっている。
最低な娘だよね。
でもね、わたし、もう誰か1人の人を愛することなんてできない。
あなたがわたしの前から消えて、2度と会えない人になって、わたしの中に絶対になくなることがない理由が生まれたよ。風俗で働く理由。
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