泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第42話>
<第42回>
この世で誰か1人の人のために注ぐ愛なんて、わたしにはもういらない。
誰かのオンリーワンになんて、なりたくない。
だからわたしは聖母のように博愛の心でもって、不特定多数の人にわたしなりの愛を分け与える道を選んだ。
あなたがわたしの中を愛でいっぱいにしてくれたから、今は世界中に愛を振りまくことができる。
それは、その一瞬だけの幻で、一歩お店の外に出れば消えてしまう、泡のようにはかない夢かもしれないけれど。
本当にその人の心を温めることができたら、本物の愛と呼んでいいんじゃないかな。
わたしはみんなに愛を注ぐことで、救われる。
あなたのいない人生を、生きていける――。
キンモクセイの枝がざわざわとわたしに語り掛ける。優しく、少し責めるような響き。
1人で勝手に消え、彼の思いを無視して自分を貫き、今なお自分の思いに反して風俗を続けるわたしを、彼は決して許しはしないだろう、あの世でも。彼の時間は絶望で終わってしまって、永遠に続きは来ない。
残された者は自分に都合のいい理屈をあれこれつけて、死者に手を振って前を向く以外ない。死んでしまえばそこで終わりだけれど、生きていれば否応なしに未来がやってくるから。
かつて2人で夢見た未来を、わたしは1人で生きていく。それが、あの人を捨てた罰なんだと思う。その罰も2人の愛の証だと思えば、愛おしい。
ゆっくりまぶたを開けると春の午後の日差しは思いのほか強くて、視界が白っぽくぼやけた。いつのまにか合わせた手はすっかり冷えきっていて、息を吹きかけた。そっと立ち上がり、彼に背を向けたところで携帯が鳴る。
お母さんかと思ったら、ディスプレイには意外な名前が表示されていた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。