泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第43話>
<第43回>
「どうしたの?」
いきなりそんな言い方をしてしまって、すぐ反省した。これじゃあまるで、かけてくるなと言ってるみたいだ。
それでもまったく声に怯んだ様子を含ませないのが、朝倉さんらしい。
今、どこにいる?』
「実家の近く」
『実家……。そうか、3日も休むんだものな』
「そっちこそ、いきなりどうしたの。休みに電話をかけてくるような非常識な人じゃなかったと思うけど」
朝倉さんと話しながら歩き出すと、急に日常に引き戻されたおかげで元気が出てくる。ハイヒールのかかとが一歩ごとにやわらかい地面にめりこんで、少し歩きづらい。
『俺、今日で終わりなんだ。言ってなかったよな、沙和に』
「うん、初耳。そっか、今日で終わりね。お疲れ様……。何年いたの?」
『数えたら、11年もいた。長過ぎるな』
数秒、決意を固めるような濃い沈黙があった。電波の向こうで朝倉さんが最後の逡巡をしている。
『俺、独立する。自分でデリヘルやることにした』
「えっ?」
『沙和にも、ついてきてほしい』
どれだけの迷いの末、朝倉さんはこう言ってくれてるんだろう。言葉にずっしり重みがあった。
もちろん働いている女の子の引き抜きなんてご法度だけど、朝倉さんの葛藤はそんなことから来ていないはずだ。
『もちろん、今度はちゃんとゴムつきだ。俺の店なんだから俺の好きにやる。沙和に不安があるまま仕事させるのは、嫌なんだ』
これは本当の解決策じゃない。
たしかに朝倉さんに惹かれているとはいえ、わたしはまだ他の人を好きになる準備ができてないし、そんなことがこの先できるのかもわからない。
だいいち、朝倉さんと店を作ったところで風俗を続けるだけで、お母さんの心配は消えないしわたしの後ろめたさもなくならない。
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