シリーズ<叫び> エピソード1「車待機」
<第1話>
深夜2時、セダンの後部座席で缶チューハイを傾ける。コンビニで買ったグレープフルーツ味は切ないほど甘酸っぱく冷た過ぎるほど冷たくて、3月始めのまだ寒い夜、胃をほかほか温めてくれた。
ドライバーは1時間前からスマホのゲームに夢中で、名前も忘れてしまった隣の女の子は細い寝息を立てて眠っている。コンビニの灯りが、彼女のニキビだらけの白い頬を照らす。
ここは某ドライバー私物の車の中、停まっているのはコンビニの駐車場。1人はゲーム、1人は爆睡、1人は飲酒と、いったい何をしているのかといえば、店からの電話指示を待っているのだ。○○さん仕事です、○○さんお迎えです、○○さん次はどこへ行ってください、というように。
あたしたちは全員、デリバリーヘルス『ダイナマントボンバー』で働いていて、今はその待機中。デリヘルには珍しくないけれど、『ダイナマントボンバー』には女の子が集まっておしゃべりしたり、テレビを見たり、客の愚痴を言い合ったりお菓子を食べたり、ブランケットにくるまって寝たりするための待機所が存在していない。
出勤時はドライバーと合流、それから仕事がつくまで車で待機、仕事から戻ればまた車、帰りは車で家まで送ってもらう……と、ひたすら車に揺られる毎日。
待機所がなければその分経費が浮くのでお給料は高くなるけれど、横になって眠れないしトイレはコンビニで借りるしかないし、トイレついでにコンビニで買ったご飯を食べても歯磨きはできないしで、女の子にとってはなかなかしんどい。
ドライバーにしたってガソリン代高騰のこのご時世、自分の車を出しておいて給料はガソリン代込みとなれば、実際の月収は普通の仕事とさして変わらないだろう。
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