シリーズ<叫び> エピソード1「車待機」〜第3話〜
<第3話>
お願いだから年下のイケメンくんでありますように、いや年下なんて贅沢言わないから、老けてていいからイケメンで、いやイケメンでなくてもいいからせめて、あたしが生理的に受け付けない男を遣わさないでください神様
…と、いつものように車の中で祈ったけれど、神様はいちいちデリヘル嬢の願いなんて聞き届けてくれないらしく、西日暮里の小さなマンションであたしを出迎えたのは、オヤジ、ハゲ、デブ、と3拍子揃ったお断りしたいタイプだった。
しかも息が臭い。
ニンニクとかじゃなくて、どちらかというと排泄物に近い、嫌悪感をビシビシ刺激する臭いだった。
「京香ちゃんっていうのー? いくつー?」
「26歳でぇーす」
タナカ、と名乗ったその客(おそらく偽名だろう)は口の横に人さし指を立てて言ったあたしに苦笑する。実際にはとうに超えているけれど、店のホームページの表示年齢はいまだ26才。だから26才。嘘ではあるが、間違ってはいない。
タナカさんはよほど溜まってたのかシャワーの最中からべたべたと、脂肪と悪臭をたっぷりまとった体でまとわりついてきて、あたしのありとあらゆるところにキスをした。素面だったら発狂するだろうが、そこはお酒が入っているので、『デリヘル嬢・京香』として色っぽい演技で応じてあげる。
「京香ちゃんって、ほんとにいやらしいねぇ」
「うん、いやらしいのー京香―」
「ほんとは、エッチがしたいだけでしょう。お金がもらえなくたって、この仕事しちゃうでしょ」
「うん、しちゃうー」
こんなアホらしいやり取りが毎回のように繰り返されるんだ、お酒でも飲まないと無理でしょ、絶対。飲まないで真面目に接客なんかしたらいつか、『てめーみたいなハゲデブブスしかも息臭せーオヤジ、仕事やなかったら半径2メートル以内に近づくのも堪忍やわ!!』とブチぎれてしまうはず。
んでもって、店もクビ。
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