シリーズ<叫び> エピソード1「車待機」〜第6話〜
<第6話>
「お疲れ様でしたー」
ドライバーに家を知られるのが嫌だから、大通り沿いのコンビニの前で下ろしてもらう。住んでいるワンルームのアパートまで、ここから歩いて2分。
春分を二週間後に控えたAM4:30の空は順調に朝へと近づいていて、いつものことだけど昼夜逆転の生活をしている自分にため息が出る。敷かれたレールを踏み外して、いつのまにかこんなところまで落ちてきて、這い上がるための気力なんてとっくになくしてしまった。
こういう時センチメンタルの底からあたしを引き上げてくれるのは、酒しかない。
コンビニでカルピスと、割るための焼酎を買った。淡々とバーコードを読み込む大学生ぐらいの店員さんは、昨日ともその前とも同じ顔。名札のお陰で、名前までしっかり覚えている。増田くん。
黒縁メガネがよく似合う、理系大学生といった雰囲気の増田くんは、毎日こんな時間に帰ってきて酒だけ買って帰るあたしをどう思ってるんだろう。都会で毎回帰りがこの時間となる職業といえば風俗しかないって、既に気づいてるんじゃないかな。
『借金あるんだか、ホストに貢いでんだか知んないけど。大変そうだなもう若くもないのに。いや、風俗嬢なんて単に楽して生きたいだけか』
「639円になります」
合計金額を読み上げる増田くんの心中を勝手に想像しながら、財布を開けた。
楽して生きたいだけ、それ、まったく否定はしないし風俗で働くことを正当化する気なんて毛頭ないが、でも楽して生きるってちっとも楽しくないし、同じように続いていく日々はいつも灰色だ。昨日も一昨日も、今日も明日も明後日も灰色一色。
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