シリーズ<叫び> エピソード1「車待機」〜第9話〜
<第9話>
賭け、だったんだ。
家を出て最初に出会ったのが男だったらハサミを振りかざし襲い掛かり、諸悪の根源を切り取ってやると。成功したら2人目も3人目も。駆けつけた警察に取り押さえられるまで、徹底的にやるつもりだった。世界じゅうに存在するすべてのアレを、ことごとく使い物にならないようにしてやりたかったんだ。
でも、犬じゃあねぇ。
ハサミを床に放り出し、2杯目のカルピス焼酎を口に運ぶあたしの目に、さっきよりもよほどセンセーショナルなニュースが飛び込んでくる。
『たった今入ってきた情報です、新宿駅構内で、20代から30代とみられる男が包丁で、無差別に人を切りつけるという事件が発生しました、今のところ確認されている被害者は8名、安否は定かではありません。男は既に警察に拘束され……』
返り血を浴びて目をギラつかせ、両脇を警察に挟まれ連行されていく男を見つめながら、取り返しのつかないことをしなくてよかった、なんて安堵は微塵もなかった。
もし成功していたら、あたしもこうやってテレビで取り上げられ、一瞬にして人生は終わり、その代わり数日間、ワイドショーのテロップに、しばらく呼ばれていないあたしの本名が躍る。そして真面目くさった顔をしたコメンテーターたちが、最近の若者はどうのこうのだの、貧困問題だの、とかくピントのズレたことを好き勝手言う。
きっと、そのほうがよかったんだ。
だって、なんにもしないで家に戻ってきたところで、明日からもまた、灰色の日々が続いていくだけ、なんだから。
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