シリーズ<叫び>エピソード2「裏取引」〜第4話〜
<第4話>
「あ、あなたたちにとって客はゴキブリですか……ひどいなぁ」
「そーだよ、ゴキブリだよ。あいつらなんて! 絶対さ、オッサンの手って何か発してると思うんだよね。人体腐らせる微粒子みたいなやつ? いつまでもこんなとこで働いてたら、うちら、すぐに老けるよ」
と、残りの缶ビールを煽る沙恵さんの姿は自分の言葉を実にリアルに反映していて、10年後の自分を想像して恐ろしくなった。
短大を卒業して小さな商社に入り、事務の仕事に就くもドン臭く、いつまで経ってもミスだらけで成長しないわたしは、会社の業績が傾くと真っ先にクビを切られた。
これからの生活費どうしようと、繁華街を歩いていたときにもらったティッシュには、ガールズバーの応募チラシが入っていて、『お客さんに飲み物を作ってあげたり、お話するだけの簡単なお仕事。時給3000円』って書いてあった。これくらいならできるかと思って面接に応募したら、そこはガールズバーじゃなくてセクキャバ。キャバって名前についていても、要は風俗だ。
毎晩毎晩、酒臭い息を吐く男たちに唇を吸われ、あんなところもこんなところもまさぐられる……。要はゴキブリどもに体じゅう這いずり回られるような生活で、そんな地獄からほうぼうのていで逃げ出して、出張マッサージの世界に飛び込んでみたはいいもの、「脱がない、舐めない、触らせない」と求人広告に打ち出してたって、実際はこんな感じ。
裏取引があまりに横行し過ぎていて、芽衣子さんみたいにちゃんとルール通りの仕事をしようとしても、客たちはそうさせてくれない。
うちの店は触らせるのダメなんですと言っても、たいがい「えー〇〇ちゃんは触らせてくれたのに?」と返されてしまう。
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