シリーズ<叫び>エピソード2「裏取引」〜第5話〜
<第5話>
「おっ電話だ」
山部さんの携帯が鳴り、一瞬、車内にピリリと緊張が走る。沙恵さんも芽衣子さんも、もちろん私も、自分の仕事であればいいのにと、信じていない神様に祈りを込める。
「はい、1時半着で。東中野。了解でーす」
山部さんはおもむろにアクセルを踏み、神の声を伝達するように誰の仕事か告げる。
「こころちゃん。お仕事ですー」
内心、ホッとしていた。
出勤からそのまま待機、早くも6時間経過。今日もお茶かなって、覚悟してたから……。
20時から5時まで週6日、レギュラー出勤しているわたしだけど、顔は人並み以下だし、マッサージは研修で芽衣子さんに教わっただけの超初心者。会話やエッチなあれこれのテクニックもないから、6日のうち3日はお茶を引いている。指名は月に1本か2本、あるかないか。
もっと稼げる店もあるらしいけれど、そういうところは女の子が働きやすい環境を作ってくれる分、それなりの成果を要求してくる。
指名が取れないわたしには、無理。
月4万8000円のアパートの家賃を払っていければオッケー。夢も目標もやる気もない風俗嬢のわたしには、いくら沙恵さんみたいに狂った同僚がいようが、裏取引が横行してようが、今の店が合っているんだろう。
「よかったねー、こころちゃん。頑張ってー!」
お酒のせいでテンション上がっている沙恵さんが言う。
東中野ってけっこう近所。大慌てでメイク直ししてるから、正直相手してる余裕ないんだけど、気を遣って後ろを向く。
「はい、頑張りますー」
「こころちゃんは、あんなこと絶対しなさそうだよね?」
「あんなこと?」
「だから、さっきの話をしてるんだよ。裏取引」
店年齢を28歳で通している沙恵さんがにやりと笑うと、48歳ぐらいに見えた。
「こころちゃんほど真面目で素直な子、風俗で見たことないよ。接客も、ちゃんと真面目にしてるんでしょ?」
不気味な笑顔に、あははそうですかねー、と愛想笑いで返し、化粧に戻った。
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