シリーズ<叫び>エピソード2「裏取引」〜第6話〜
<第6話>
車から降り、山部さんからタオルとタイマーとマッサージオイルの仕事道具一式が入ったキャスターを渡される。そして、指定されたマンションの指定された部屋に向かう。
オートロックの小奇麗なマンションは、丑三つ時にふさわしく、空気すら息を潜めているみたいで、エレベーターのチン、という音にすらビビってしまう。
風俗嬢として生きているわたしは、極力自分の存在を隠したくてしょうがない。
今ごろ沙恵さん、『こころちゃんもさぁ、あれで絶対ヤラせてると思うんだよねぇ。あの程度の顔なんだから、そうやってオプション料でも取ってかないと、まともに稼げないでしょ』とか言ってるんだろなぁ――――――。
心中呆れながら相手をしている芽衣子さんが簡単に想像できてしまう。
「こんばんは。どうぞ、上がって」
黒瀬さんというその人は、ドアを開けてくれたその瞬間、わたしをドキリとさせた。
奥のリビングだけが明るくて、キッチンの照明は消されている。
弱い光にぼんやり浮かび上がった顔は、彫りが深くて、色が白くて、目もとが涼しげで、大好きなとある俳優さんによく似ている。
正直、好みだった。ラッキーだって思ってしまった。
そう思った時点で、わたしは黒瀬さんに負けていたんだ。
芽衣子さんが指導してくれた通り、マッサージは通常背面からスタートする。足裏、両足背面、背中、肩周り、の順。
しかし黒瀬さんは開始早々うつ伏せを拒んだ。
「えー、仰向けがいいなぁ」
「え、でも……」
「うつ伏せだったら、こころちゃんの可愛い顔が見えないじゃん」
「そんな、わたしなんて……」
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