シリーズ<叫び>エピソード2「裏取引」〜第8話〜
<第8話>
「そんな、わたしなんて全然、可愛くないです」
「可愛いよーこころちゃんは。名前も可愛いし」
「名前負け、してますから……。って、ちょ、待って下さい」
いつのまにやらマッサージする側からされる側に、上下の立ち位置が入れ替わって、しっかりベッドの上に押し倒されていて、でもわたし、本気で嫌がっていない。
大好きなイケメン俳優にそっくりの顔を目の前にして、身体の中心はだらしなく火照り、潤っている。
あーあ、我ながら最悪。
「いいよね? ほら、これ、先にお金」
いそいそと渡されて、受け取った一万円札が虚しかった。
この一万円は、黒瀬さんの意思表示だ。
あくまでこれは割り切った行為であって、愛など存在しないと。勘違いすんじゃねーよこのクソブスが、と。
心は虚しさでいっぱいなのに、体のほうは、黒瀬さんの整った顔に、分厚い胸板に、引き締まった腹筋や見事にすらっと長い手脚に、みっともなく欲情している。
わたしみたいな女、死ねばいいんだ、早く。
「こころちゃんは本当に可愛いね」
当然のように避妊具なんて使われないままインサートされ、黒瀬さんはわたしの耳もとであやすように、何度も何度もしつこく、同じ台詞を繰り返した。
黒瀬さんの下で、わたしは感じていた。
身体が悦べば悦ぶほど、心は削り取られていく。
こんなことをしたからって、黒瀬さんはわたしを愛してくれるわけでも彼女にしてくれるわけでもない。そんな勘違いするほど、わたしはバカじゃない。
けど、最高だとか気持ちいいとか可愛いとか言ってもらえる時、愛の欠片がわたしに降り注がれてる。
欠片は欠片。
実態はなく、一瞬きらめいただけで、すぐに消えてしまうんだけど。
いつまでこんなことが続くのかな。
いつまでこんなことを続けるのかな。
わたしはいつになったら愛した人に愛してもらえるのかな。
自分のことを愛せるのかな。
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