シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第7話〜
<第7回>
夜の公園は花火を振り回したり奇声を上げたり、幼いあたしにはおっかないお兄ちゃんたちにしか見えなかった不良のたまり場になるから、オオカミから隠れるウサギみたいに、卵型のドーム状になった遊具の中で膝を抱えて、震えながら祈ってた。
早く、おっかないお兄ちゃんたちが帰ってくれますように。早く、お母さんが仕事を終えて迎えに来てくれますように……。
お母さんは大体、約束の時間から30分か1時間過ぎて、息を切らして迎えに来てくれた。
「ごめんね、遅くなっちゃった。わー、手もほっぺたも氷みたいじゃん。ごめんねぇ」
そうやって、やわらかくてあったかい手のひらで、すっかり冷たくなった顔や手をあっためてくれて、抱きしめられると、今日もお母さんをちゃんと待っててよかったなって、素直に思えた。お母さんはいつもいい匂いがして、髪の毛がふわふわで、あたしに全然似てない美人さんだった。
何も持ってないあたしにとって、お母さんは唯一の自慢で、唯一の宝物だったんだ。
「美弥がいい子で待っててくれたから、こんなにもらえたよ。これで今月の家賃は、大丈夫! ほら、肉まん」
冬場はいつも、迎えるに来る時に必ず買ってきてくれる、コンビニの99円の肉まんが小さい頃のあたしの大好物だった。
でも、心が脆くて、すぐにお客さんのことを本気で好きになってしまっては捨てられて、そんなお母さんとあたしの生活はなかなか安定せず、一番長くいた、ドブ川の傍の家だって、ついに家賃が払えなくて追い出されたんだ。
お母さんと過ごした最後の一年間なんて、ひどかった。お母さん、男の人に借金を押し付けられたらしく、
「タチの悪い奴に追われてる。あたしと美弥は、世界の果てまで逃げ続けなきゃいけないの」
なんて言ってた。
最初はホテルを渡り歩いていたけれど、やがてお金も少なくなってきて、公園や自動販売機の裏で親子2人、動物みたいに寄り添って暖め合って、寝るようになった。
つまり、ホームレス。
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