シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第11話〜
<第11回>
何度も何度も何度も、鼻息が聞こえなくなるまで、顔の形がわからなくなるまで、しつこく同じ行為を繰り返した。
そうしているうちに、なぜか、デジャブのごとく2年前の出来事が甦ってくる。
「……何それ。何よそれ。美弥まで、あたしのこと否定すんの!?」
お母さんが立ち上がると、赤地に花柄の安っぽいワンピースの裾がふわり風に舞った。
そういえばもう何日も、お母さんはこの服しか着ていない。
元はきれいな女の人だったから、それなりに体を売って稼げただろう。でもタチの悪い奴らに追われ、ついにホームレスとなった過酷な生活はお母さんの美しさも若さも残酷なまでに奪っていって、以前と同じことをしたって同じようには儲からなかったはずだ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも頭良くってずっと比較されて、あたしだけバカだの、努力が足りないだの、根性ないだの言われ続けて、そんでグレたら近所にバレたら恥ずかしいからそんな格好で外歩くなって、そんなことしか言われなくって、あげくの果てに妊娠したって言ったらハイ勘当。
そんなうちの親と、あんたも何も変わんないんだね!?
あんただけは、あたしの味方じゃなかったの!?
運命共同体じゃなかったの!?
それを楽してるだの逃げてるだの、あいつらと言ってること、何も変わんないじゃん!! たった1人で公園のトイレで産んで、死ぬほど痛い思いして産んで……。
それから、それからずっとあんたを守ってきたのは、誰だと思ってんだよこのクソアマがぁ!!」
あたし以外には誰も届かなかったであろう、河川敷を吹き抜ける風しか聞いてなかったであろうその言葉。
1人で吠えるお母さんは28歳でも48歳でもなく、98歳の老婆に見えて、胸がひりひりした。
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