Yumika〜風俗嬢の恋 vol.2〜<第13話>
<第13話>
「そんなもんですかね。まゆみさんの彼氏は、ダメ男ですか?」
「彼はちゃんとした人よ」
唇にミルクティーをつけて堂々と言うので、本当にそうなんだろうなぁと思った。急に、まゆみさんが猛烈に羨ましくなった。ちゃんとした人がそばにいて、その人に好かれて、その人が好きで好きでたまらないなんて。
「何してる人なんですか?」
「普通の会社員。歳は、ひとつ上」
「へー。あの、この仕事してるのは……」
「知らないわよ、当然。バレないかっていつもドキドキ。OLしてることになってるの」
「ごまかせるもんですか、それって」
「それが案外、誤魔化せるのよね」
ふっくらした白い顔でほくほく笑うまゆみさんは、本当に幸せそうだった。
じゃあ、あのリスカの傷は? 恋愛問題じゃない、別のところから出たものなんだろうか?
ずっと聞けなかったけど、聞いちゃいけないと思ったけど、今なら聞いてもいい気がした。煙草の灰を落とし、唾をひとつコクリと飲んで「あの、まゆみさん」と言いかけた時、さおりさんのはじけるような笑い声が聞こえて、二人一斉に休憩室からちょこんと顔を出す。
客用の出入り口の前、さおりさんと富樫さんが向き合って笑いながら話している。プレイ中の声が漏れないよう、トランスがガンガンにかかってる店内でも、さおりさんの大きすぎる笑い声はよく響く。
普段あたしや理寿を睨みつけたり、嫌味を言ったりするのとはまったく別人のさおりさんが、そこにいた。やぁだもうー、と声を間延びさせ、富樫さんの肘をぱしぱし叩いたりしている。
さおりさんと仲のいいまゆみさんはもちろん、二人が付き合ってるのを知っている。
「ね、わかるでしょ。マイナスの要素があればあるほど、盛り上がるのよ」
「そうですね」
親友がイタい恋をしているにも関わらず、まゆみさんの口調はずいぶん冷えていた。
さおりさんだって、わかってないわけじゃないだろうに。ほんとに愛していたら、その女をいつまでも自分の店で働かせたりなんかしない。
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