Yumika〜風俗嬢の恋 vol.2〜<第15話>
<第15話>
フリルを重ねた白のワンピースにグレーの半そでパーカーを重ねた、安っぽい女だった。外灯の光に照らされ、右手に持った長いものが鈍い輝きを放つ。
包丁だ。
冷静なあたしもさすがに血の気が引いていく。ついでに足がもつれ、派手にこけた。
ショートパンツから伸びた膝を思いっきり打ちつけ、手のひらもすりむいたけれど、痛いだなんて言ってられない。
獣みたいな声を上げながら女が包丁を突き立て、向かってくる。転がるようにして避けると、チュニックの裾が避けた。包丁が当たったらしい。
間一髪。ぐらぐらする足に力を入れ、ブロック塀にもたれるようにしながらなんとか身体を起こすと、女が震えながら振り向いた。
嫉妬にひきつった醜い顔も包丁を持つ手も拒食症患者みたいな細っこい脚も、がたがた揺れている。
「死ね。マジ死ね。殺してやる!!」
両手で包丁を支えながら突進してくる女の髪と肩を引っつかみ、腹に膝蹴りを入れた。
ぎゃあ、と大げさな悲鳴を上げる頬に一発渾身のビンタを食らわせると、もう一度悲鳴を上げ、アスファルトの上に膝を折ってしまう。足元に転がった包丁を蹴り上げると、ゴミ集積所から溢れたビニール袋に当たって、止まった。
あたしはこう見えても元ヤンだ、腕っぷしには自信がある。しかしあっけない。あっけなすぎて、こっちが拍子抜けする。
アスファルトにぺたっと座ったまま、女はぎゃあぎゃあ喚き出した。誰か警察呼んだりしないかなぁ、と周りの様子がちょっと気になる。
「どうしてあんたなんかが統哉の彼女なのよ。あんたなんかが本命なのよ。あたしのほうがよっぽど統哉のこと好きだし、統哉にふさわしい。あんたなんか風俗嬢じゃない。あんたなんかあんたなんか」
「ホストクラブにはキャバ嬢も風俗嬢も、いっぱい来るんだって。時にはAV出てるような子も」
女がぱちくりと目を見開いた。化粧が剥げ、真っ黒い涙が頬を濡らす。呆れるばかりの醜さだ。
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