Yumika〜風俗嬢の恋 vol.2〜<第16話>
<第16話>
「でも統哉はそういう子の話をする時、絶対『なんか』なんてつけない。確かに、その人がどういう考えで何をしているか、それも人を判断することの立派な材料だよ。でもそれだけじゃないんだって、統哉はちゃんとわかってる。バカだけどあいつは、そこだけは感覚的にわかってるの」
「……」
「あなたも統哉のそういうところが好きなんじゃないの?」
女は更に何か言おうとしたけれどやがて言葉は言葉の形をなさなくなり、意味のない嗚咽ばかりが響いた。
二十分ぐらいたっぷり泣いた後、女は無言で立ち上がり、駅のほうに向かって歩き出した。ゴミ集積所の前に転がったままの包丁を、あたしはそっとビニール袋の中にしまった。明日は燃えないゴミの回収日だった。
そう。統哉は一度も、あたしをバカにしなかった。こんなあたしをまっすぐ受け入れてくれた唯一の人が、統哉だった。
物心ついた時には既に、父親はいなかった。
母さんは優しい時と冷たい時の差が激しい人で、優しい時は可愛い服を着せたり写真を撮ったり、ドイツ人とのハーフでイケメンだったっていうお父さんとの思い出を何時間もしゃべったり。
でも冷たい時は、あたしを殴る。牛乳をこぼしただけで服を脱がされて真冬のベランダに出されたり、目つきが悪いと言って熱湯を浴びせられたこともあった。
事あるごとにあんたなんか生まなきゃよかったと言われた。
よくドラマとかに出てくる台詞だけれど、世の中には自分の子どもに向かって、洗脳のようにその言葉を繰り返す親が、実際にいる。
洗濯はろくにしなかったし、お風呂にも入れてもらえなかったから、あたしは薄汚い子どもだった。ホームレスみたいに悪臭漂う服を着て髪の毛はフケだらけにして、学校に通った。ノートとかエンピツとか、そういうものもなかなかそろわなくて、クラスの忘れ物はいつもあたしが断トツだった。そんな子どもが好かれるわけもなく、小学校では「汚い」といじめられ、友だちが一人も出来なかった。
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