トーキョー’90クロニクル vol.3 『飯島愛がアイアイ言っている一方で、細川ふみえは、にゃんにゃん言っていた』

2014-04-15 16:00 配信 / 閲覧回数 : 1,488 / 提供 : 大泉りか / タグ : 90年代 ポケベル 女子高生 東京


 

JESSIE

<前編 vol.2>はこちら 

 

ポケベルが欲しくてキャッチの男の誘いに乗ったら……

 

「ね、ポケベル欲しくない?」

 

すぐに怪しげな誘いとすぐにわかったものの、ポケベルは欲しい、喉から手が出るくらいに欲しい。頷くわたしを、キャッチの男はすぐそばの雑居ビルへと案内してくれました。

 

風俗店や街金の案内表示のあるエレベーターに乗って、連れていかれた先は『ツーショットダイヤル』の事業を行っている事務所。そこでわたしは『ポケベルと交換にツーショットダイヤルのサクラ』をしないかという打診を受けたのです。

 

念のために説明しておくと、ツーショットダイヤルとは、電話を通じて見知らぬ男女が出会い、会話をすることのできるサービスで、テレクラと違うのは、無店舗で営業していて、男女ともに好きな場所から電話をすることができること。

 

もちろん実際に会うことを期待している多くユーザーもいますが、互いに近所にいるとは限らないために、即アポには向かず、どちらかといえばじっくり口説きたい、もしくはテレフォンセックスでささっと性欲を満たしたい、という男性ユーザーが多く利用していました。

 

一方、女性ユーザーは退屈で誰かと話がしたい、刺激が欲しい、そしてやはりテレフォンセックスがしたい……といったところでしょうか。

 

ちなみに女性はフリーダイヤルですが、男性はダイヤルQ2と呼ばれるNTTの情報料金課金回収代行サービスを使って通話時間に応じて課金されるシステムです。

 

『ツーショットダイヤルのサクラに登録すれば、ポケベルが無料で借りられる。しかも、暇な時間に男性と話せば、一時間1500円ほどのバイト代が出る』というのですから、そんな美味しい話はありません。

 

というのも、当時、近所の蕎麦屋でアルバイトをしていたのですが、そちらの時給は750円。しかも、勉強に差支えがでるというので、シフトに入るのも土日のみしか許されていなかったのです。

 

ポケベルを配給される上に、自宅でこっそりと稼げるとなれば、断る理由はありません。

 

見知らぬ男性と話すといっても、電話越しであり、自分の連絡先さえ教えなければ、リスクもほぼゼロ……というわけで、わたしは16歳にして、ツーショットダイヤルのサクラ嬢となったのでした。

 

しかし、見知らぬ男性たちと会話をするのは、さして難しくはありませんでした。

 

なぜなら、相手には下心があり、そして、基本的にはこちらを口説こうという思惑があるからです。ゆえに、基本的にいは感じ良く会話を運んでくれる。

 

しかも、わたしがサクラだということは、秘密である以上、サービストークをする必要もない。ただ、男性たちの質問に応え、時に問い返し、我慢できる範囲のエロ話につきあい、どうしてもウザくなったらガチャ切りするというふうに、着々と時給を稼いでいきました。

 

飯島愛? それとも細川ふみえ? ツーッショットダイヤルの男性と激論

 

そんなある日のこと。ある男性と話している最中「好きな女性タレントは誰」と尋ねられました。なんの気なしに「飯島愛」と答えたところ、突然、男性がムキになって「それだったら細川ふみえのほうがいいに決まっている」と主張してきたのです。

 

男性にとっては、どちらも『セクシー』を売りにしたタレントというカテゴリーだったのでしょうが、わたしにとってはまるで違います。

 

たしかに飯島愛が、深夜のテレ東で放映されていた『ギルガメッシュないと』で、CM前に「ギルガメーシュッ」とTバックを見せる演出は、完全に男性視聴者向けだったと思います。

 

が、小麦色の肌、パールピンクの口紅、金茶の長い髪……まさにコギャルのお姉さん版といったそのルックスは、ギャルになりたい女子高生たちの憧れの的でもあったのです。

 

それに比べたら細川ふみえはただのおっぱいが大きいだけのタレント。そこにはギャルが喜ぶ様子はゼロ。確かに当時、飯島愛がアイアイ言っている一方で、細川ふみえは、にゃんにゃん言っていたかもしれませんがそれを一緒くたにするな!

 

「いや、女子高生は飯島愛が好きなんです」

 

「でも男はああいう黒くて薄汚い女よりも、色白でふんわりした女が好きなんだよ!尻なんかよりも、おっぱいだ!!!」

 

こうして決着のつかぬまま、揉めること数分。すると男が突然こう言ったのです。

 

「……キリがないし、こうやって話してる間も金掛かるんだよね。だからさ、俺の家の電話番号教えるから、直接電話してこいよ。コレクトコールでいいからよ」

 

いや、それじゃ時給でないし。

 

即座に「ええっ……」と漏らすと、男は鬼の首を取ったように「何だよ。コレクトでいいのに、掛けてこれないってサクラかよ」

 

「いえ、違います」

 

「じゃあ、掛けてこいよ」

 

押し問答することまたもや数分。もう面倒くさくなり、「すみません、こういうの、時間の無駄なんで、切りますねー」とクソ生意気な口調で言ってガチャ切りましたが、もしかして最初から、怒らせて挑発し、家電に掛け直させる作戦だったのだろうか、と後から思ったのでした。

 

 

<Vol.4>に続く

 




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