フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第9話>

2014-06-02 20:05 配信 / 閲覧回数 : 986 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : chiyuki フェイク・ラブ 連載小説


 

<第9回目>

 

「あーあ、ひっまだなー」

 

段ボールの壁の裏に隠れてお客さんが来るのを待ってるわたしたち。

 

わたしはロングヘアのかつらをかぶって口裂け女のメイクをして、長谷部くんは三つ目小僧のマスクを両手の間で弄んでいる。わたしと長谷部くんに交代してから1時間半、その間やってきたお客さんは二組だけ。

 

一組目は男の子のグループでわたしの顔を見てげらげら笑い、三つ目小僧に扮した長谷部くんとたっぷりふざけ合ってから(たぶん長谷部くんの友だちだったんだろう)帰っていって、二組目の女の子のグループはわたしの口裂け女顔に一瞬ギョッとして、長谷部くんにはまったく無反応だった。

 

「今、体育館で軽音楽部のライブやってるからじゃない?」

 

「そーなの? でもそんだけじゃねーだろ、もしかして俺らのクラス人気ないとか?」

 

「なんか、お化け屋敷ってうちらの他に4クラスもやってるらしいね」

 

「マジかよ! くっやしー」

 

本当に悔しそうに、体育座りにした膝をマスクでばしばしやっている。暗くした教室の中では長谷部くんの横顔がいっそう端正に見えて、口裂け女風にほっぺたまで口紅を塗った自分の顔が急に恥ずかしくなり、俯いた。

 

「ねぇ、なんで長谷部くんはおどかし役やったの?」

 

「なんでって。柿本さんこそなんでおどかし役なの?」

 

「わたしはじゃんけんで負けて……。でも長谷部くんは自分からやりたいって言ってたから、珍しいなって」

 

「やりたいだろ、そりゃ。なんでみんなやりたがんないのかと思うよ、逆に。お化けになって人を脅かすとか、他にこんなチャンスないじゃん? すげー面白くね?」

 

変なメイクをして口裂け女になって、友だちみんなと学校じゅう見て回りたいのにそういうことも口裂け女の間はできなくて、ソンな役回りだとばっかり思ってたのに……。

 

自分にはない斬新な考えを無邪気に口にする長谷部くんが、急にすごい人に見えてきた。

 

「そう言われたら、そうかも」

 

「だろー? でも、よーし、来る人来る人ギャーギャー言わせてやるー! ってやる気出してたのに、これだぜ? 客が来ねーんじゃ、オバケだって張り合いがねーよなー」

 

「そのうち来るよ」

 

「そのうちってもう、あと30分で交代だぞ? 終わったよ、俺の文化祭なんて」

 

「じゃあさ、こうしない? もしわたしと長谷部くんが来年も同じクラスになったら、来年もまたお化け屋敷、やろうよ。リベンジするの」

 

いったい何を言い出すんだろうわたし……と、言ってるそばから自分の発言に戸惑ってた。変な顔になってるのを忘れて、いつのまにか長谷部くんのほうに体を向けてるし。

 

 

長谷部くんがはっとしたようにこっちを見て涼しげな印象の二重の目を大きくする。

 

 

 




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