泡のように消えていく… 第一章〜Chii〜<第19話>

2014-12-01 16:00 配信 / 閲覧回数 : 991 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Chii 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第19話>

 

「竜希さん、なんかすっかり旦那さんっていうか、お父さんになっちゃいましたね」

 

2人肩を並べ、家の方向へ歩き出した道すがらそのことを言うと、竜希さんは「えー、そう?」と目を丸くする。

 

「うそー、どのへんが?」

 

「由実さんも生まれてくる赤ちゃんも、竜希さんにすごく愛されてるんだなって思いました」

 

「よせよー、かずちゃん。愛されてるんだなんて。照れるじゃんかぁ」

 

なんて背中をばしんと叩かれたら、一瞬触れたところが妙な熱を持つ。

 

ほんのり頬を赤らめて幸せそうに笑う竜希さんは、鈍感なのかバカなのか、その両方なのか、こんなに近くにいるわたしの気持ちにまったく気づいていない。

 

「かずちゃんは彼氏できないのー?」

 

「できないですよ。この通り、子どもっぽいし」

 

「ダメだよ、そんぐらいの歳のうちにちゃんと付き合っとかなきゃ。今はまだいいけど、まったく男を知らないまま誰も守ってくれない年齢になったら、コロッと悪い男に騙されるぜ」

 

「悪い男って、竜希さんみたいな?」

 

「そうそう。て、ちがーう!!」

 

また、背中ばしん。

 

竜希さんは悪い男だ。わたしにとっては、最悪だ。

 

愛おしいのに、愛おしいからこそ、腹が立つ。

 

昼下がりの住宅街は主婦の姿が多く、正面からそれぞれスリングに赤ちゃんを入れたお母さん2人組がおしゃべりしながら近づいてきて、それが2カ月後の由実さんの姿に見えて、思わず目を逸らした。

 

「かずちゃんは真面目過ぎなんだよ。勉強ばっかの優等生なんて、社会に出たら逆にやってけないぞー?」

 

「そんなに真面目でもないです」

 

「じゃあなんか最近、真面目じゃないことした?」

 

「この前初めてお酒、飲みました」

 

「お酒ってかずちゃん、もうハタチだろ? 合法なんだよ! やっぱ真面目だよー!」

 

ハタチになるまで本当にお酒を飲んだことがないと言うと、友だちにはびっくりされるし、少し引かれる。

 

真面目になりたいと思って真面目になったわけじゃないのに…。はみ出した生き方ができるほど、器用じゃないだけ。

 

 




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