『メゾン・ド・エレクトノエル』~アスペルガー&発達障害&記憶障害と今のあたし~(1)
『101号室』
外は雨が降っている。結構などしゃぶり。「こんな日に、外に出ていかなきゃならない人って大変だな」と考えている私は、今、外に買いに行きたいものがある。
それは電池。
でも、雨の日は外に出たくない。荷物も増えるし、寒いし、何よりも濡れる。でも、電池を買いに行きたい。頭の中は、そんな“でもでも”の無限ループ。
欲しいのは単3電池、ひとつなのに。だってね、電動歯ブラシは、あの振動は、師匠だ。
オナニーは1人でするものだし、したいのは今なんだしね。家族に頼むわけにもいかないし、代用品もないし、かといって我慢もしたくない。
欲求不満なのかも知れないけど、SEXがしたいわけでもない。そんな状態の今の私。
子宮の疼きの高まりを感じながら、つらつらと考えごとをしている。
SEXの数が増えると旦那に対する愛情は確実に増す。
でも愛情が濃くなると、嫉妬が強くなり心配が増えて、深い愛の代償として疑心暗鬼が心を貧しくする。
SEXしないと嫌いにはならないけど、濃い薄いでいうなら、愛情は淡く、より薄くなる。例えてみれば、同志みたい。だから嫉妬はなくなる。なので楽チン、だけどそのままでいると、多分あたしはあの人を男としては見なくなる。
もちろん好きは、好きよ。大切だし。
だけど、お強請りするのはがさつだし、虚しい気がするのよね。
高嶺の花でいたい人間ほど、実はむっつり、ど変態だしね。
準備して待っているけどスルーされると、期待してしまった分だけ心鷲摑みされる。
だからついついしたくないふりして……。結局悪循環生んで。負のスパイラルにハマッてく。
自己嫌悪は、自己顕示欲が強い奴ほど、自惚れと比例して極地に至る。そう、私みたいに。
たった一言「しようよ」と言えるだけで、全然世の中変わるんだろうけど、その一言が言えなくて今がある。
アスペルガー、発達障害、薬漬け、昏睡……
小さい頃から『変わってるね。浮いてるね。不思議だね』と言われ続けた。みんなオブラートに包んだ表現をするけれど、それ、率直に言えば、この子は頭がおかしい、だよね。
母親にありとあらゆる検査をされ、結局の診断結果がアスペルガー症候群。
「脳波に異常がありますので、恐らく先天性アスペルガーで、後天的には発達障害になるでしょう」
そう言う医師の前で、安堵している母親に吐気がした。
薬漬けの日々、「家族の邪魔になる。だからいっそ死んでくれる? 一緒に死んであげるから」
そんなことを母親から言われてこともあった、
あの日は天地が真逆に回っていた。でもトントン、って整理整頓できた音もしてたんだ。
ひどい摂食障害で35キロの体重だった。その状態だけでも、死んでもおかしくないほどたったのに。気づいたら、38針縫った左腕の傷痕、48時間の昏睡を乗り越えていた。
目覚めたら、「死ね」って言ったその人が、ベッドの傍らにいて……。
寒気がした。
だけど、その寒気は、私が確実に生きてる証でもあった。生かされた、ってことを知った瞬間だった。
そのときの私は「なんで?」しかなかった。
なんで、死ねなかったの? と。
生きていても、いいことなんて起こらないと思っていたから。
あたしね、母親の口癖の「普通にしなさい」って言葉が大嫌いだった。
普通ってナニ? 比較級の言語は差別用語に過ぎないでしょ、と。
……私は愛する人に、いつも本音を言えない。
そんなことをつらつらと考えていた、ある雨の日。
何か別のことを考えれば収まるかと思っていたのに、子宮の飢えはまだ止まらない。
そして雨も止まないし。あーあ、オナニーがしたい。
どこかに単3電池、ないかな……。
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