泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第19話>
<第19回>
うららちゃんが彼と借りていたマンションを引き払って引っ越したのは、2階建ての古い木造アパート。和室の1LDKはやや手狭なものの、家主の手でギンガムチェックのカーテンやピンクのカラーボックスが持ち込まれ、ハタチの女の子が住むに相応しい質素な華やかさがある。家賃は区からの補助が出ているらしい。
「もう8カ月でしょ? こんなもん?」
畳にぺたんと座った雨音さんが、興味深そうにワンピースのお腹を撫でる。
うららちゃんに会いに来たわたしと雨音さんとすみれさん、そしてうららちゃんの4人のほか、この空間にはもうひとつ命がある。まだ小さいけれど姿も見えないけれど、確実に存在している命。
「だよねー? わたしもそう思ったー。直前にならないとおっきくなんないらしいの」
穏やかに微笑むうららちゃんは、以前よりも頬がふっくらしている。生活が落ち着いたせいで、表情に余裕が出てきた。
すみれさん主導のカンパに協力したのは、わたしと知依ちゃん、雨音さん、それにもちろん、すみれさん。結局この4人だけで、大した額にはならなかった。
でもすみれさんの積極的な働きかけがあったお陰で、額よりも大きなものを得た。
うららちゃんとその赤ちゃんのために何かしたい。共通の思いが4人を結びつけた。
どうやってうららちゃんを支えるか、4人で話し合った。
といっても社会人経験の少ないわたしたちのことで、妊婦でも働ける風俗があるみたいだから安定期になったらそこで働いてもらうとか(わたし案)、自分の貯金から援助しようかとか(すみれさん案、あの子に返せるほどの経済力はないし逆にプレッシャーになるだけだと雨音さんに猛反対された)、彼氏を探し出してボコボコにして持ち逃げされたお金を取り返すとか(雨音さん案、こちらはすみれさんが猛反対)、ろくな案が出ない。
一番まともなことを言ったのは、最年少の知依ちゃん。
『社会保障を利用するのは、無理なんですか?』
……さすがは一流大学の学生だ。恥ずかしながら、40歳に近いわたしにその発想はなかった。
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