Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第13話>
<第13話>
口の中でため息をつきながら、世界を真っ赤に変えていく夕日を見つめていると、正義くんが前に回り込んできた。
何? と聞く前に素早く抱き寄せられて、顔が近づいてきて、気がつけば唇を塞がれている。
ほんの一瞬、ごくごく軽い、感触も覚えられないような小さなキス。
唇が離れて至近距離で真面目に見つめられて、ようやく心臓が口から飛び出しそうな驚きがやってきた。
「なっ、何やってるんですか」
「ごめんなさい。やよいちゃんがあんまり魅力的で、ドキドキしたから、キスしちゃいました」
「なんですかそれ」
「自信、ついた?」
「え?」
正義くんがまたニッ、と笑った。悲しみもトラウマも目尻の皺にぐいぐい吸い込まれていきそうだった。
「男と付き合えば、自信つくよ。整形したいなんてもう言わせない」
「で、でも正義くん、別にあたしのこと好きなわけじゃ」
「好きだよ」
また唇を塞がれてしまう。
数時間前の、ナメクジが口中を這い回るような嫌な感触を、正義くんのキスがきれいさっぱり拭い取ってくれる。
抗えない、と思った。
あたしはこの人に、今はっきりと急速にふくらむ気持ちに、決して逆らえない。泳ぎ方を知らない子どものように深みにはまり、溺れていく。
たっぷり時間をかけた丁寧な唇の愛撫が解かれた瞬間、早口で言った。
「夕菜です」
「え?」
「あたしのほんとの名前。夕菜って言います」
「可愛い名前じゃん」
正義くんが三回目のキスをしてきた。
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