Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第14話>
<第14話>
りさが顔を上げて、控え室の中をぐるりと見回した。ナンバーワンの自分がこの中で一番えらいと信じて疑わないような、上から目線の瞳。
「悪いのは向こうで、さおりさんが責任を感じる必要はありません。あたしたち、富樫さんにもそう訴えるべきです。みんなでさおりさんのこと、守りませんか」
「何が守るだよ」
睨み付けたあたしを、りさは不思議そうにきょとんと見つめる。
りさは天然で、邪気がない。すべては純粋な善意から出たことで、だからこそ腹が立つ。
「何が守るだよ、何があたしの気持ちがわかるだよ!? えらそうに。あんたにあたしの気持ちがわかるもんか」
「あたしは。あたしはただ、これからもさおりさんと一緒に働きたくて」
「うるさいよ偽善者。ほんとは、ざまあみろって思ってんだろ? ナンバーワンからツーに降格して、おばさんって言われて、最近は制服も似合わなくて。あたしのこと、笑いたいんだろ? これであたしがクビになったら、あんたのところにあたしの客が流れ込んで、大ラッキーだよな!?」
日本人にしては茶色みの強い目が大きく見開かれた。
こいつが嫌いだった。こいつのすべてが嫌いだった。
何を考えているかわからない目、大して可愛くもないのになぜか男に好かれる顔、デブ体質のあたしには絶対手に入らない華奢な足。何もかもが、ハナについた。
香耶が涙声で言う。
「清美、やめなよ」
「うるさい、あんたは黙ってて。だいたいお前目障りなんだよ。最近入ってきたくせに、でかい顔しやがって」
「あの、あたし」
「黙れって言ってるだろ!」
「清美やめて、りさちゃんは清美を守ろうとして」
あたしを押さえつけようとする香耶を振り払うと、ガタンと派手な音がして、香耶の身体の右半分が、ロッカーの扉に叩きつけられた。
バカにされたくない。見下されたくない。むしろ人から大事にされたい、尊敬されたい、敬われたい。
そんな立派な人間でもないくせに、本気でそう、思っていた。
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