Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第16話>
<第16話>
白くて細い、イカの触手みたいなつるんとしたりさの腕に、あちこち真っ赤な切り傷や打ち身が出来ていたのを思い出す。
富樫さんに抱きかかえられるようにしながら立ち上がったりさは、やられたくせに、逆に申し訳ないという顔であたしを見た。
傷ひとつない、きれいなままの顔が恨めしかった。
腕なんかいくら傷つけたって意味がない。男たちに好かれるあのロリっぽい顔こそ、ぐちゃぐちゃにしてやりたかったのに。
「なんであたしが謝んなきゃいけないのよ。あいつのせいじゃん」
冷たい部屋の中、声が反響する。
こんなことを言ってもりさにも、あのムカつく常連客にも不良少年たちにも、届かない。富樫さんは何も言ってくれない。
無意味な声がむなしく空気に溶ける。
「あいつが悪い。何もかも、あいつが」
「……」
「りさが、あいつが、いなければ。あんな奴、うちの店に入ってこなきゃ」
ちゃんと分かってる。ほんとは、自分が悪いんだってこと。
でもあたしは臆病者で、自分が悪いと認めるだけの勇気がない。
そんなに、自分に自信のある人間じゃない。
プライドばっかり高くて、ほんとの自己評価なんてめちゃくちゃ低かった。だからこそナンバーワンでいて、稼ぎまくって、洋服も化粧品もバックも好きなだけ買って、安心してたかった。
からっぽになったあたしの底で、炎のような憎悪がめらめら盛り上がり、それによってあたしはようやくベッドから起き上がる。富樫さんに突進し、その胸を拳にした両手でどんどん殴った。
「なんでよ。なんでなんでなんで。なんであいつが、あんな奴が、ナンバーワンなのよぉ。あたしがあんな子どもみたいなのに負けなきゃいけないのよ」
「これから、どうするつもりだ」
感情をそぎ落とした声が拳を止める。
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