Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第19話>
<第19話>
富樫さんの足音が遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなってから、声を張り上げて泣いた。
ここにはあたし1人きりで、どんなに声を振り絞っても背中を撫でたり、慰めの声をかけてくれる人はいない。そのことが、気が狂うほど悲しかった。
自分から1人を選んだはずなのに、こうなってみると、1人が苦しくてしょうがない。
あたしは群馬の田舎で生まれ育った。父親は平凡なサラリーマンで、母親は郵便局で働いていた。きょうだいはあたしの他に、5つ離れた弟が1人。どこにでもある、平凡でありふれた幸福な一家。
だから、嫌いだった。
自分の生まれ育った家が、家族が。特にでっぷり太っててガハガハ笑って、普通が1番だと言い張る母親が。
そんな母親によく似てしまった自分の顔も、嫌いだった。
普通が1番だなんて嘘っぱちにしか聞こえなかった。
醜く太った母親も、日本らしくほんのりしょうゆのような香りがする古い実家の家も、一刻も早く逃げ出したいものだった。このままここでこいつらと一緒に生活してたら、今に自分も醜くなってしまうと思った。
あたしは違うのに。あたしはこんな奴らなんかと同じじゃないのに。
あたしは普通に甘んじない。もっと特別で、スペシャルで、歩いてるだけでみんなから手を叩かれるような、すごいものになりたい。別にテレビに出たり、芸能人を目指すわけじゃないけれど、とにかく普通じゃない、すごいことをやってやりたい。
母親みたいな人生は歩みたくない。
だから、荒れた。
大人に隠れてタバコを吸ったり、万引きのスリルを味わったり、周りの女の子たちより早くセックスを覚えてエンコーしてオヤジから金をむしりとって、「普通じゃない」気分を存分に味わった。
父親は怒鳴り、母親は泣きながら怒鳴り、弟は白い目であたしを見ていたけれど、そんな家族たちは余計にウザくなった。
「清美がなんでこんなことをするのかわからない。お母さんは何も難しいことなんか言ってない、平凡に平和に、普通に生きてほしいだけなんだ、なんでそれがいけないんだ」
……そんなことを言う母親がウザくて、高校卒業と同時に家出した。
つまり、家族を捨てた。1人になった。
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