Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第20話>
<第20話>
たどり着いたところはもちろん東京で、しばらくはホームレス状態。
エンコーで知り合った男の家を渡り歩いてた。
街をフラフラしてたら、富樫さんからスカウトを受けた。風俗やAVのスカウトなんていつもは目障りでしかなかったけど、ちょっとかっこいい男だな、と思ってついていったら、熱心に頼まれた。
「今度新しい店を作るから、オープンスタッフとして働いてほしいんだ」と。
18歳で風俗デビューして、まもなくナンバーワンになった。
でかい胸と、常日頃1ミリでも細くなればと切に願っているこの太ももが、武器になったのだ。
店が軌道に乗った頃、ひそかに憧れていた富樫さんから食事に誘われた。そして、あたしはセックスから大幅に遅れて、人を愛することを知った。
風俗嬢になってからの4年間、うまくいっていた。ナンバーワンは女王様と同じだ。目玉が飛び出るほどの高額のお給料をもらうのも、ちやほやされるのも、楽しくて仕方なかった。
休憩室の中でだってやりたい放題で、ゆかとか気に入らない後輩には容赦なく冷たくしてやった。怖がられることさえ、快感だった。
だけど築き上げた地位も名誉も、大好きな人との絆さえも、こんなにあっけなく崩れてしまう。
結局、あたしは何が欲しかったんだろう。
あたしが手に入れようとしてたものってなんだろう。
普通を嫌って、特別でスペシャルなすごいものを目指して、家族を捨てて一人を選んで、いったいどこへ行こうとしてたんだろう。本当は案外、母親にさんざん言われたような、ごくごく普通の、平凡な幸せが欲しかったのかな。
好きになった人に、好きになってもらえる幸せ。世界中どこにでも転がってる、小さな幸せ。
でもそれすら手に入れられないまま、23歳のあたしは早くもおばさんになろうとしている。
「死のう」
その考えが口を突いても、自分の思いついたことにびっくりはしなかった。
店をクビになって、収入ゼロになって、富樫さんにも捨てられて。これからどうやって生きていったらいいのか、どう生きていきたいのか、まるでわからない。
だったら死ぬしかないじゃん。
たしか高い木の枝とかがなくても、タオルとドアノブで首吊りできたんだっけ。ちょっと前にアイドルが自殺したっていう週刊誌の記事を思い出して、準備を始めた。パソコンと周辺機器を繋ぐ延長コードを外してドアノブに巻きつけ、首を入れる輪っかを作る。
自殺とか、究極に甘えてるな、あたしは。
でも実際、あたしはこんな甘えたことしか出来ない人間で、今さら他の誰かになんてなれなくて、そんなあたしにとって世界はひどく生きづらいのだ。
生きてるだけで辛い思いをするのなら、別に死んだって構いやしない。
自殺はいけないと声高に叫ぶ人間は、幸せなんだろう。そういう、幸せな、ちゃんとうまく生きられる人の言うことなんて、あたしが聞く必要はないんだ。違う人種の考えなんて、いくら聞いたって受け入れられるわけないし。
首に輪を通した。なぜか香耶の顔が浮かんだ。月明かりが差し込む青い部屋の奥で、香耶が微笑んでいる気がした。
「さよなら、香耶」
こうしてあたしは短かった人生に、23歳と一週間で幕を閉じた。
<第4章 完>
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