Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第13話>
<第13回目>
「まゆみさん、辞めるんですか? この仕事」
休憩室の奥にいたりさが、好奇心に目を見張って近寄ってくる。
りさは最近、ちょっと派手になった。
真っ黒い髪を染めたし、タバコも吸い始めたみたいだし。それでもやっぱり高校生、見ようによっては中学生にも見えてしまうのは、一種の才能みたいなものなのかもしれない。
「辞めるわよ。いつまでも続けられる仕事じゃないしね。どっかで、思い切らなきゃ」
「そうなんですか。あたしは、移ることになりました。ここの系列のソープに」
今度はあたしが驚く番だった。りさがソープに移るという事実よりも、背負った自分の運命をちっとも憂いてない、それどころか何も見ていない、目の前の茶色い瞳に。
「どうして……? りさちゃんならまだ若いし、ここでも十分稼げるんじゃ……? 今だって、ナンバーワンなのに」
「あたし、お腹に赤ちゃんがいるんです」
りさは、事も無げに言った。
今朝パンを食べたんです、明日映画を見に行くんです……。そんな感じのことを言うような、淡々とした言い方だった。
無意識のうちに、セーラー服に包まれたりさの、お腹の辺りに目をやってしまう。まだ2カ月とか3カ月なのか、そこはぺったんこで、と命の存在なんてても感じられない。
「相手とは、結婚しません。1人で育てたいんです。だから今よりもっと、稼がなきゃいけなくて」
りさの口調には悲壮感が全然なかった。それが気味悪かった。りさと向き合っている顔から血の気が引いていく。
「お腹大きくなるギリギリまで働いて、産んでしばらくしたら復帰しようかと。貯金、たくさんしなきゃ」
「りさちゃん……。それで、いいの?」
りさがぱちぱちと目をしばたたかせた。
「何が、ですか?」
純粋な疑問が、あたしから言葉を奪う。
りさは、最後まで何を考えているのかわからない子だった。
どうしてこの子は、自分が不幸なことに気付かないでいられるんだろう。何もかも他人事のような顔をしていられるんだろう。
それがいわゆる「強さ」から来るものじゃないことは、なんとなくわかっていた。
りさは、それから1週間後に、店を辞めた。
同じ頃、あたしも4年勤めた店に別れを告げた。
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