フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第4話>
<第4話>
「るいさん、これ、よかったら」
その冨永さんが、車が赤信号で停まった途端、250ミリの緑茶のペットボトルを差し出してきたので、ちょっと慌てた。
——差し入れ?
出されたものはありがたく受け取るしかない。
——まさか異物混入してるってことは……?
なんて考えていると、
「何も入れてないから心配しなくていいですよ。キャップ、ちゃんと未開封ですから。確認してください」
思考を先読みされたようでさらに慌てた。冗談を言ってるのだと気づいて、あはは、と小さく笑う。
「こういうお店だと、お茶の差し入れは、女の子に失礼だってことになるんです」
「お茶……だから?」
「そう。でも、お仕事ついた後だったら大丈夫です」
「お茶だけ、ダメなんですか?」
「コーヒーとかだったら大丈夫でしょうね。でも、そうなると、紅茶はどうなんでしょうね。ジャスミン茶は? ほうじ茶は? 微妙ですね。お茶と名のつくものは全部やめといたほうが無難でしょうね」
へーえ、と薄く笑って相槌を打って手の中のペットボトルの温かさを確認する。
ハリボテの笑顔の奥にしまい込んだ今日の屈辱を悟られないようにしてたけれど、ほんとはちゃんと気づかれてたのかもしれない。気づいて、差し入れして笑わせて、なんとか私を本物の笑顔で送り出そうとしてくれているのかも。
だったら、ほんとはそんなに悪い人じゃないんだろう。
もっとも、こんな店で働いてるのは男でも女でも、まともな社会じゃ生きていけないダメ人間中のダメ人間に決まってるから、必要以上に仲良くしようとは思わないけれど。
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