フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第7話>
<第7話>
「レンジにかけてくるから。それ、ちょうだい」
聡はへの字口のまま自分のお椀を押しやった。
あっため直した味噌汁を差し出すと、聡はお礼も言わず、お椀を受け取ってずうずうすすり、うん、やっぱ味噌汁は熱くねぇとな、ってようやく少し機嫌のいい声を出す。
「あのさ、これからのことなんだけど」
そう言った途端、箸を動かす聡の頬がこわばる。
現実から目を背けるように、話し合いを拒絶するように、食べるスピードが速くなる。
「私のバイト代だけじゃ、やっぱきついよ。この家の家賃光熱費、全部払うの」
時給のいい深夜にコンビニ弁当を作る工場でバイトしてるって嘘を、聡はあっさり信じている。
疑われてなくて安心する反面、感づいてバレてしまって、俺のためになんてことするんだと怒ってくれて、そんなふうに聡が目を覚ます日が来るのを待っているもう一人の私がいる。
「だいぶ売ったじゃん、それで金作ったじゃん。俺のマンガとかCDとか、藍美の服とかバックとか」
「そんなお金はとっくになくなったし、この家に売れるものはもうないよ」
聡がさすがに箸を置いた。
私の顔は見ない。
「そんな、なんで。俺ら、全然金使ってねぇじゃん。どこも行かないし、うまいもんも食わないし」
「聡がずっと家にいるから、聡の想像以上に光熱費がかかるの。パソコンってめちゃくちゃ電気代食うよ」
「俺のせいにすんのかよ」
「そんなつもりじゃ……」
「んなこと言って、ほんとは藍美が俺に隠れて、こそこそエステにでも行ってんじゃねぇの?」
「いい加減にしてっ」
穏やかな話し合いにしようと思ったけど、ついに我慢の限界。
なんでこんなことになったんだろう?
なんでこんな生活してるんだろう?
聡が大好きだったのに……。
絶対幸せになれるって思ってたのに……。
聡の肩越しに棚の上に飾ったフォトフレームが見えて、観覧車をバックに微笑む2人が過去から笑いかけている。
明るい未来を信じて疑わない笑顔が、今の私へのあてつけみたいだ。
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