フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第9話>
<第9話>
ドリームガールの収入だけで、2LDKの家賃を払って、光熱費を払って、二人分の携帯代を払って、プラス聡の医療費だ。
いくら保険が効くからといって、2週間に1度の通院費用や薬代は馬鹿にならない。
それで改善するならまだしも、一向に聡が働き始める気配がないもんだから、ドブにお金を捨ててるようなものだ。
わかんねぇよ、俺も。自分の体なのに心なのに、言うこと聞かなくて」
「引きこもってゲームばっかしてるから余計に良くないんだよ、思い切って働いてみて、厳しい環境で頑張ったほうがかえっていいんじゃないの?」
しばらく間があったので、必死の訴えがついに聡の心に届いたのかと思ったけど、やがて返ってきた言葉に失望させられる。
「医者は焦らなくていいって言ってる。まずは病気を治しなさいって。うつは病気なんだから、必ず治るんだから」
「……じゃあ、早く治してよ。そして、働いてよ。私、もう限界」
「うん、わかった、そうする、絶対そうする。ごめんな藍美、泣かせちまって」
私のものより少し大きな手の平に顔を包まれ、キスをされる。
拒絶したかったけれど、店でブスブス罵られて乱暴に突かれた上、今しがた泣いたせいで、すっかり気力を消耗してしまった体は、小指一本動かすのすら億劫だった。
それに仲直りのセックスを嫌がったりしたら、そうか、こんなうつの男なんてもう好きじゃないんだな、藍美ひどいよ、だなんて今度は聡が泣き出すに決まってる。
19歳で聡に出会って処女を捧げ、あれから3年経って、数えきれないぐらいの回数を重ねても、セックスをあまり好きになれない。
私が不感症なのか、聡がヘタなのか、いくら試みても、そんなにいいものだと思えない。
ましてやドリームガールで働きだしてから、私の中には客への、男への、セックスへの嫌悪感が芽生えてしまって、仕事すればするほど、嫌悪感はむくむく膨らんでいく。
ちょっと前までは、セックスが苦手なら苦手なりに、好きな人に抱かれる精神的快感を得られていたのに、今では聡とのセックスも客とのセックスも対して違わないものになっている。
1年前までは、きゅっと引き締まっていた聡の体は、自堕落な生活のために脂肪の層にすっぽりくるまれ、だらしない。ぶよぶよのお腹が揺れ、上から納豆臭い息をかけられる。
コンドームの中で聡が果てるまで、こんな拷問みたいなこと、早く終わればいいと願っていた。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。