フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第19話>
<第19話>
『藍美、どうなの? そっちは』
「どうって、別になにも」
親には風俗嬢になったことはもちろん、私も聡も勤め出した会社をさっそく辞めたことも言っていない。
心配かけたくないというのは親を思ってのことじゃなく、心配されたことに付随する面倒くささが煩わしいからで、要は自分のためだ。
『聡くんとはうまくいってるの?』
「別に、普通」
『普通って、何よそれ。あんたたちそろそろ結婚しないの? もう、3年も付き合ってるんでしょう?』
「私も聡も、まだ若いよ。私は22歳で、聡は24歳だよ」
22歳で結婚というのは、地元では決して早くはないんだけれど。高校時代の同級生で子どもを産んだ子を3人も知っている。
しばらく考え込むような間があった後、お母さんは噛んで言い含めるような口調になった。
『ねぇ、結婚しないなら、一度こっちに帰ってきたら? 東京の仕事よりいい仕事はないかもしれないけれど、家賃とか払わなくていいんだもの、アルバイトで十分でしょう? それで、おばあちゃんの介護、手伝ってちょうだい。延也も、あんたがいたらしっかりするだろうし。聡くんだって、少し距離を置いたほうが、改めて結婚のこと考えてくれるかもしんないわよ』
「……考えとく」
物事を、何が何でも自分の都合の良いように進める口調に嫌悪感を覚えて、もう寝るからとさっさと電話を切った。
電波が途切れると、街路樹が立てる葉ずれの音がより大きくなった。かさかさかさかさ……。私の代わりに、無数のため息が頭上でこぼれる。
もともと実家はあまり居心地のいい場所じゃなかったけれど、自分がこんな状態になってみるともはや2度とあそこには戻りたくないし、戻れない。
風俗なんて世界に足を踏み入れた女の子は、親兄弟や親戚、友だち、そういった“普通”の人たちとは一切関わっちゃいけないような気がする。
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