フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第20話>
<第20話>
「レナさんの迎え、行きます」
車に戻ると、冨永さんが待ち構えていたように言って、エンジンをかけた。
「え、ごめんなさい。私電話してて」
「いえ、急ぎじゃないし、レナさんの家、ここからすぐなので。本当に急ぎの時は、キャッチホン入れます」
言いながらクラッチを握る冨永さん。運転席の後ろに置いていたバックを、まもなくここに座るレナさんのため、膝の上に移動させる。
渋谷に向かう通り沿いにある小奇麗なマンションで自宅待機しているレナさんは、ドリームガールの不動のナンバーワンだ。HPのランキングで1位以外にいるところを見たことがない。
年齢はたぶん、私より少し年上で、25歳〜26歳ぐらい。背が高くて、手も足もすらっとしていて、歩くと蜂蜜色に染めたワンレンの長い髪が背中できらきら光を跳ねさせる。
アーモンド型の大きな目にスッと通った鼻筋が目立つ美人で、じろじろ正面から顔を見つめたら失礼だから、隣に座った時の横顔しか見たことないけれど、平面顔の私とは全然違う立体的な骨格は、日本人離れしている。
「おはようございまーす」
語尾に“♪”がつきそうな、まさに歌うような声。
これから仕事に行くっていうのに、仕事っていうのは、つまり好きでもない格好よくもない男の人に好き放題されるってことなのに、心から楽しそう。
ナンバーワンのレナさんはあんまり眩しいから、そこにいるだけで気圧されてしまう。
オーラを吸い取られるような気持ちで俯いている私の隣で、レナさんは手鏡で顔の最終チェックをしながら、冨永さんと話していた。
「久しぶりだなーこの人。ご飯食べれるからいいけど」
「ご飯食べに行くんですか」
「行くよ、ロングコースだから。この前はしゃぶしゃぶ、おごってもらった」
「おぉ!」
「今日も鍋がいいかなぁ。なんか、急に寒くなったもんねぇ。鍋、恋しーい!」
言葉の端々に仕事を楽しみ、仕事にプライドを持っていることが感じられるレナさん。
お金をいただく立場のくせに、客を憎み、嫌っている私とは、全然違う。
客を憎むなんて、筋違いもいいとこなんだ。いくらひどいことをされたってひどいことを言われたって、客がいなかったら、生活できないのに。
間違ってるのは私で、正しいのはレナさん。
でも……、といじけた私がぐずりだす。
だって、レナさんは可愛いじゃない? 私なんかとは別世界の人じゃない?
レナさんは、学生時代憧れていた、自分もそうなれたらと痛いほどに願った、あのバラの花みたいな女の子。ぺんぺん草の私に、レナさんと同じことができるわけないんだもの。
ドリームガールに入って半年経つけれど、私には本指名が一本もない。
冨永さんの携帯が音を立てる。買った時のまま変えていないらしい、とがった高い音。
ハンドルを握ったまま店長と話した後、いつも眠そうな顔の冨永さんが珍しく少し大きな声を出した。
「るいさん、仕事です。レナさんを送った後、向かいます」
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