フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第26話>
<第26話>
どすどす歩み寄り、頭からヘッドセットを鷲掴みにして放り投げると、伸ばしっぱなしの髪がヘッドセットに絡みついて、「痛ッ」と悲鳴が上がる。
「痛いじゃないよっ、私のほうがどれだけ痛いか、苦しいか、想像できる!? 毎晩毎晩、好きでもない気持ち悪い男にキスされて、あちこち触られて、ビンタされたり、鞭で叩かれたり。今日なんて、お尻の穴、ヤラれたんだからっっ」
途中から涙が溢れてきて、声が掠れた。
視界に涙の膜がかかって、聡の顔が歪む。聡が急に遠くなる。
唖然とした声。
「鞭? お尻? なんだよ、お前、普通のデリヘルじゃねーの? SMやってたの?」
「違うっ!! 普通のデリヘルでも、そんぐらい過激なサービスするの、本番も道具も当たり前で、人によっちゃ殴ってきたりするし、ローソク垂らされたこともあるし」
マジかよ、とまた呆けた声。
むなしさで喉の奥が熱くなる。
なんで私はこんなことをわざわざ聡に説明してるんだろう。お店のことなんてどうでもいい、今ほんとに伝えたいことは別にあって……。
「いつから気づいてたのよ!!」
「いつだろ? 結構前だよ。藍美のドレッサーの前で、そういう仕事を探す本、見つけてさ。ページが折ってあったから、あーそっち系の仕事してんだなって。それに最近の藍美いつも化粧とか服とかバッチリで、工場の深夜バイトなのに、そんな格好で出かけてくのおかしいなって……」
「わかってて、黙って送り出したのは、しょーがないから!? 聡にとって、私が他の男にキスされたり、あちこち触られたり、ヤラれたり、もっとひどいことされるのは、しょーがないで済ませられることだってわけ!?」
沈黙は肯定と同じ。
叱られた子どもの顔で、唇を噛んで、今にも泣き出しそうにフローリングを見ている聡を目の前にしたら、悲しいよりもムカつくよりも、やりきれなさで胸がはちきれそうだった。
こんな男のために、こんな男のために、こんな男のために、私は私は私は……。
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