フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第29話>
<第29話>
ドアの前から聡の気配が消えると、私を支えていた強い感情が、潮が引くように去っていった。
激しい寒気を覚えて、両手で自分の肩を包み込む。
冷たい床にぺたんと座って、さっきの濡れた子犬の瞳を思い出していた。
すがるように私を見つめていた聡は、哀れで情けなくて、もはや男の人としての魅力なんて欠片も感じなかったけれど、その代わり胸をキリキリ締め付ける。
聡はもはや完璧なダメ人間で、本当に雨の日に捨てられた非力な子犬と同じで、私に見捨てられた途端ほんとに死んでしまうかもしれない。
思いは聡に出会ったばかりの日々へと繋がっていく。
4年前のことだった。
私は19歳の短大一年生、聡は21歳の四大に通う3年生。人数合わせにと、半ば無理やり付き合わせられた合コンで、席替えで隣に座った途端、熱心に話しかけてきたのが聡だった。
出身は? バイト何してる? 誕生日と血液型は? 休みの日は何して過ごしてる? メアド教えて?
男の子に熱心にアプローチされるのなんて、生まれて初めてで、嬉しいよりも戸惑いのほうが強くて、しどろもどろになっていた。いきなり積極的な聡に引いていた私だけど、一緒にいた友だちが盛んに聡の助太刀をしたせいもあって、そのままメアドと電話番号を交換した。
合コンから帰ったその日の夜、早速1度目のメールのやり取りをし、その後は1日に5〜6往復はメールをした。
こっちは男の子とのメールのやり取りの要領なんて全然わからなくて、すぐに返事はしちゃダメだってよく言うけれど、「すぐって何分ぐらいのことなんだろう?」とかいろいろ考えながら、私への好意を至るところににじませたメールに言葉を返すのが精いっぱいだった。
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