フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第28話>
<第28話>
「落ち着け、藍美。頼むから、落ち着いてくれ。今の藍美は混乱してるんだよ、冷静に判断しなきゃ」
言いながら抱きしめようとしてくる聡を、身をよじって振り払った。迫ってくる彼氏の体は、客の体と同じように、気持ち悪い。
私はもう一生、幸せなセックスはできないのかもしれない。
「落ち着いてる! 落ち着いて考えて判断してる!! 今、衝動的に言ってることじゃないの、何度も何度も考えたことを、今、決めただけなの!! 私、聡と別れる。聡を見捨てる。今すぐここから出てってっ!!」
抵抗する聡を無理やり立たせ、腕を掴んで玄関へ引っ張る。
聡が私の手を振りほどき、逃げる、また聡を捕まえる、聡は暴れる、聡の頬を殴る、バチンという音に聡は心底驚いたのか、目を丸くして、初めて私に殴られたショックで茫然としている。
その隙に再び聡の腕を取って、玄関へ引っ張る。聡がうぎゃああぁー、と奇声を上げて、腕を振り回し、耳に当たった手が一瞬聴覚を奪う。
火事場の馬鹿力というやつが発揮されたのか、筋肉が萎えきった聡の体は大人の男の力を失っていたのか、本気の取っ組み合いを何度か繰り返した末、ついに私は聡を戸外へ押しやった。
2人とも寒い朝なのに、汗びっしょりで息が切れていて、互いにぜいぜい肩を上下させながらしばらく見つめ合う。
ノブを引っ張ると、聡は閉まろうとするドアの隙間に顔を突っ込んできた。久しぶりに朝の光に晒された顔は紙のように真っ白で、濡れた子犬の瞳が、私を突き刺す。
「頼むよ、藍美。俺は、藍美がいないと生きていけない」
ありったけの力を込めてドアを閉めると、聡の鼻先がちょっと挟まって、ぎゃっという声がした。
すぐに鍵をかけチェーンをはめる。
聡はしばらくドアの前で、「開けてくれ、ごめん、俺心入れ替えるから、ちゃんと働くから」と泣き叫び、ドンドンドンドンやってたけど、「出てけ!!!!!」って怒鳴って、思いきりドアを蹴ったら、声もドンドンも止んだ。
靴を履いていない足が、アパートの廊下を進み、階段を下りて行く。
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