フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第33話>
<第33話>
いい加減、冷たい床にくっついてるお尻が、氷みたいになって立ち上がる。
よたよた窓に歩み寄り、そっとカーテンを開けると、予想通り。アパートの目の前にある公園に、聡はいた。所在なさげにブランコに座っていて、寒そうに背筋を丸めている。
公園の前を柴犬を連れて通り過ぎていく人が、靴下だけの聡の足もとを顔をしかめながら何度も見ていた。
あそこで待っているんだ、あの人は。私がこの窓からあの人を見つけて、迎えにきてくれるのを。
聡に言った通り、聡と別れれば、私は風俗を辞められるだろう。
自分一人で暮らしていくぶんには、たくさんのお金は必要ないから、バイトでもなんでもいいから普通の仕事を見つけ、つつましく生きて行けばいい。
むしろそうするべきだと、客観的に私たちの状況を見た誰もが思うはずだ。
聡だって私という甘えられる存在がいなくなれば、ちゃんとするかもしれない。
なのに私は、聡の身体にかけてあげるパーカーと靴下だけの足を包むスニーカーを用意している。
聡の私への気持ちは、もはや愛じゃなくて依存で、それは私も同じだ。
私が好きなのは昔の聡で、そんな人はもうどこにもいない。
だけれど私は、『俺は藍美がいないと生きていけない』という聡の言葉に、弱い聡に、すがってしまう。
依存されることに依存している。
聡と付き合ってからの4年間、ダイエットしたり、お化粧やおしゃれを始めたり、それなりに努力してみたものの、相変わらず私はブスのままだった。
だから当然、薄っぺらい、けれど若い女が生きていくのに必要である自信を得ることはできなかった。
その代わり、別の自信がついた。
こんな私でも聡に愛されている、という自信を。
それは風俗嬢として毎日体も心もボロボロになっている私をたしかに支えてくれていて、絶対に失っちゃいけないものだ。
右手にパーカー、左手にスニーカーを持って、肩で玄関のドアを開けると、冷たい戸外の空気が頬を刺す。
薄い七分袖Tシャツとスエットだけで放り出された聡は、どんなに寒い思いをしているだろう。衝動的とはいえ、夕べの客と同じことを自分がしてしまったんだと反省した。
「ごめんね、聡」
聡に言う前の予行演習のつもりで呟いた。
カンカンカンカン、わざと音を立てて一気にアパートの外階段を降りる。
フェイク・ラブ 〜Aimi〜<完>
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