フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第2話>
<2回目>
目の前にいるこの木崎も女の典型だ。首と顔の色がちぐはぐの下手な化粧や安っぽい香水で飾ってるけど、ひいおじいちゃん辺りが魚類だったんじゃないかと思わせるような魚顔のブスで、年齢はたぶん34歳〜35歳くらい。
四角いメタルヌレームの眼鏡は、知性派を気取ってるつもりなのかもしれないが、暇さえあれば若い女性社員をいじめていて、お局様と恐れられてるこの女に、ろくな知性があるとは思えない。
この人の脳みそを占めているのも、20代の頃は、ファッションと美容と噂話と芸能人のことだったろう。
そして「アラサー」の「アラウンド」でさえなくなった今は、迫り始めた出産のリミットと、結婚できず彼氏一人いないまま女としての盛りを過ぎていくことへの焦りだ。間違いない。
趣味は料理とフラワーアレンジメントだと公言しているが、真っ赤っかな嘘。一回きりの体験レッスンを受けたのを大げさに言ってるだけに決まってる。
ほんとの趣味はネット購入したバイブでのオナニーと、登録した結婚相談所から届くお見合い相手紹介のメールチェックってとこかな。
「ちょっと、あなた人の話聞いてるの?」
ただでさえとがってた声がより一層きつくなったのではっと顔を上げると、四角いメタルヌレームの奥の目が血走っていた。まずい。
「まったく信じられないわ、人と話してる時にぼうっとするなんて。寝坊したんだから睡眠時間は十分でしょうに、それでも眠くなるぐらい私と話してるのが苦痛?」
「すいません」
「すいませんじゃないわよ、まったく反省なんかしてないくせに簡単に謝らないで。どうせ遅刻ぐらいでガミガミ言われて嫌だなーとか、またオバサン木崎が怒り出したとか思ってるんでしょう。丸わかりなのよ」
「すいません」
そう口にしてしまったのは、別に木崎を怒らせようとしたわけではなく、他に言うことを思いつかなかっただけ。でも、謝るなと言われた上でのしつこい謝罪は、このキリキリ女にヒステリーを起こさせるのに十分だったらしく、血走った目が火を噴きかけた。
何か言おうとというか、怒鳴ろうとした木崎を、両側からおじさん社員二人がまぁまぁとなだめる。
爆発しかけた木崎も、さすがにダブルでおじさんの困り顔を見せつけられたら怒りが萎えたみたい。
それでもしばらくはブツブツ言っていたけれど、今日中にもう二度と遅刻はしませんという念書を出すと約束して、やっと解放してもらえた。
馬鹿らしい。何が念書だ。
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