フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第4話>
<4回目>
壁時計で18時を回ったことを確認してから携帯を取り出し、店に出勤確認のメールを入れる。
『予定通り19時から出勤できます。今日は24時アップ厳守でお願いします……』
『厳守』の文字は、見直して後から付け加えた。
さすがに二日連続ドリームガール残業になって、二日連続遅刻なんかしたら今度こそ木崎はブチ切れるだろう。念書一枚で済むわけない。
「お疲れ様でーす」
毎日さっさと定時で帰ってしまうあたしに、同期の女性社員たちがいい顔をしてないのはわかってる。
あたしからしたらホイホイとサービス残業を受けてしまう会社の犬思考のほうが意味不明だ。
運よく残業代が出たってそんなのタダ当然の金額で、だけどドリームガールに出勤すれば24時までの早番だけでも2万は行くし、運が良ければ4万を超える金額がお財布に入る。
まぁ、体を売る度胸もなければ、売ったところで買い手もつかないような女たちにはそもそもが無理な話か。
「奈々子せんぱーい、一緒にお夕飯しませんかぁー?」
更衣室には既に有加がいて、ブラウスのボタンを外しながら相変わらず語尾を伸ばしたしゃべり方で話しかけてくる。ふりふりレースのベビーピンクのブラジャーからはみ出している、ぷっくり丸い乳。認めたくないけれど胸だけは有加に完敗だ。
「ごめん、予定あるから」
「うわぁー、今日も彼氏と? 奈々子先輩てば、お盛んなんだからなぁ」
この程度の下ネタでも、有加が言うとものすごく下品に聞こえるのはなんでだろう?
まぁね、と愛想笑いを返し手早く着替えを済ませ更衣室を出る。
外に出て秋の夜の冷気をたっぷり吸い込む。
ついこのあいだまでは、ぼんやりオレンジ色に輝いていたこの時間の空は、今はしっかり黒く街灯の光が映える。
昼と夜が交代する夕方時は、あたしが奈々子からドリームガールのレナに変わる瞬間。
ハイヒールを鳴らしながら駅を目指して速足で歩いていると、ひと足ごとに昼間の間押さえつけていたホンモノの自分が目覚めていく。
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