フェイク・ラブ 第二章〜Nanako〜<第6話>
<6回目>
「おはようございまーす」
アフター5のこの時間、新宿西口のロータリーは人でごった返している。
車も始終行き交っているけれど、そのうち一般車の6割が風俗関連の車だ。
特に19時とか20時とか21時、きりのいい時間になると、停まってるのは、ほぼ100%デリヘルの車だと思っていい。
19時や20時や21時出勤の女の子を拾うため、いろんなお店の車が、西口ロータリーを舞台に、熾烈な場所取り合戦を繰り広げる。
今夜のあたしの担当は冨永さん。
愛車のワゴンは、ロータリーのちょうど真ん中らへんに停められていた。いい位置を確保している。
「今日はすんなり停められたんだねー」
「すんなりじゃないですよ。さっきまで大戦争でしたよ、他の車と。ねっ? るいさん」
早速ワゴンを発進させながら、乗り合わせたるいさんに声をかけている。
半年ぐらい前に入店したから、もう新人じゃないけれど、かなり内気な性格なのか、未だにほとんどしゃべっているところを見たことがないるいさんの横顔に、うっすら笑みが広がった。
待機室のないこの店では、みんな他の女の子と積極的に関わろうとしないけれど、冨永さんの車は、他のドライバーさんの車より雰囲気がいい。
長く風俗をやっていれば、女の子も従業員も、誰が仕事ができて誰ができないか、なんとなくわかってしまう。
2年ほど前からうちにいる冨永さんは、今のところ、ドリームガールで一番仕事が出来るドライバーだ。
網の目のように張り巡らされた東京の道をよく知っているから、誰よりも速く目的地に女の子を届けられるし、気配りもできて、冗談も言えて、乗った女の子を絶対に不愉快にさせない。
「まず、るいさんの仕事行って、その後、他の女の子のお迎え行って、その子とレナさんとで仕事向かいます。二人連れのお客様です。るいさん、お釣り確認してください」
こうやって、ちゃんと動きを説明してくれるのもいいドライバーの条件。
中には目的地についてから仕事です、なんてお釣りの入った袋を出してくるドライバーもいる。
仕事が入っていた他の女の子を迎えに行く場合もあるんだから、仕事で動くならこれから仕事ですと、車を動かす時点で言ってほしい。
お化粧したり香水をつけたりブレスケアを噛んだり、あたしたちには仕事前にやることがたくさんあるのに……。
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