フェイク・ラブ 第三章〜chiyuki〜<第30話>
<第30回目>
「何、それ。江口くんと向き合えって言ったのは彩菜じゃん」
「そうだけどさぁ」
あの後も江口くんの家には何度か呼ばれて、少しずつ二人の関係は進行していってる。
最初の日は一瞬しか触れなかった胸も今はダイレクトで揉まれるようになったし、この前は江口くんに初めてパンツの上からあそこを触られた。気持ちいいかと聞かれて雰囲気を壊したくないから頷いたけれど、本当はよくわからない。
江口くんは熱い、濡れてる、って随分興奮してた。緊張してただけで気持ち良くも興奮してもいないのに、女の体って便利だなぁと思う。
朋子の言う通り、これからも江口くんと江口くんの家で会い続けていれば、「ヤッちゃう」のはほぼ確定だ。
「あたしは何も、そこまでしろとは言ってないよ」
彩菜はすっかりぬるくなってしまったカフェオレをすすりながら言う。話してる内容が内容だからなのかこっちを見ない目は、わたし自身よりもわたしのことを心配していた。
「初体験って、一生に一度のことでしょ。一度しちゃったら、もう二度と初めてはないんだよ」
「だから?」
「だから。最初ぐらい本当に好きな人と……」
「わたしだってほんとは長谷部くんがいいよ」
つい声が強くなり、周りが気になる。ティーンエイジャーでいっぱいのドーナツ屋さんの2階席はみんなが自分たちの話に夢中で、誰もわたしのイタい片思いになんて興味なかった。当然だ。
「長谷部くんがいいけど、ダメなの。仕方ないの」
「仕方ないって……」
「みんながみんな、一番好きな人と付き合えるわけじゃないでしょ。妥協して別の誰かと付き合って初体験する人だって、いっぱいいると思うな。エッチは一番好きな人としなきゃいけないなんて、だったら一番好きな人とエッチできない人はどうなるの? 彩菜が言ってるのは、きれいごとだよ」
「そうだけど」
だけど、の後が続かない。わたしたちを囲む甲高い声のおしゃべり、楽しそうにはじける笑顔。どこにでもあるドーナツ屋さんの光景が今はなぜかイラつく。
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