フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第1話>
<1回目>
職業病ってやつだろうか、ドリームガールの仕事をしている時もそうでない時でも、無意識のうちに同業者を探してしまう。
ある程度長く風俗をやっていれば、誰だって見分けられる。見た目とか雰囲気より、シチュエーションで。
たとえば、平日の真っ昼間から服を買いに来る若い女。店に客が入りだすのは学校や会社が終わる夕方以降なのに、まだ15時過ぎという時間に買い物に来るなんて、いったいどんな仕事をしているのか?
歳はたぶんあたしと同じくらいか少し上。だから、まだ学生で、時間の自由が効くご身分ってわけでもないだろう。もちろん、風俗やキャバの他にも、平日の昼間に休める仕事はいくらでもある。
とはいえ、ここは新宿、石を投げれば風俗嬢かキャバ嬢に当たると言われている町の地下商店街だ。あたしの予想はたぶん間違ってない。
「いかがですかー? うわぁ、すごーくお似合いですねー!」
試着室のカーテンが開く。
ハタチでショップ店員を始めて以来、何万回と使ったわからないその台詞を、また口にする。笑う時は口角をしっかり上げるだけじゃなくって、声のトーンや目の表情にも気を配らなきゃいけない。
本当に本当の心の底から出た(と思われる)笑顔を添えて、この魔法の一言を言わないと、服は買ってもらえないから。
実際、その明るいオレンジのツインニットは、彼女の真っ黒い髪にも垢抜けない顔にも、寸胴気味でやたらと肩幅が広い体つきにも、まるで似合っていなかった。典型的な、服を着てるんじゃなくて服に着られてる状態。
ショップ店員の仕事はホストと大して変わらない。
ホストは好きでないものを好きといってお金を使わせ、あたしたちは似合ってないものを似合ってると言ってお金を使わせる。
なんともあくどい商売だと思う。
値段に応じたサービスを提供する風俗のほうが、よっぽど仕事としてきれいだ。
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