フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第2話>
<2回目>
「えー、そうですかぁ? やっぱりちょっと派手な気がするんですけど……」
「そんなことないですよー。ほら、こちらも昨日入ってきたばっかりの新作なんですけど、春物のスカートと合わせると。ね? 素敵じゃないですかー!!」
鏡の前に立つ女の表情が明るく変化していく。
まったく似合わない服も、繰り返し褒められることで似合っているような気になっちゃうんだから、人の精神構造って案外単純だ。
「じゃあ、これ買います」
「スカートはいかがされますか?」
「お願いします」
「わかりましたー、お会計こちらになります」
よーし、入荷したての春物が一気にさばけた。これで今月は、売り上げのことでマネージャーにネチネチ言われなくて済む……。そんな内心はもちろん押し隠して、スマートにお客様をレジへ誘導する。
ギャル系、CanCam系、non-no系、キャバドレスetc。10代~30代前半の女の着る服がひと通り揃っているこの地下商店街でも、うちのブランドが扱う服は25才以上から30代前半がターゲット。
あたしは24才だけど、老けて見えるので2年前からこのブランドに回されている。1年前からは店長という肩書きがついた。
だけど、店長なんて肩書きだけもいいところで、責任ばっかり重くなって給料も待遇もアルバイト時代とそんなに変わらない。
しかもターゲット層を少し年齢高めに設定している分、周りのショップよりも価格帯が高いから、正直客入りはあんまりよろしくない。売り上げをちょっとでも良くするため、いつも四苦八苦だ。
カードで精算を済ませた後、服を包みながら目の前の女をさりげなく観察する。
田舎臭い顔立ちをカバーしきれていない下手くそな化粧に、おどおどした雰囲気。なんとなく、メンヘラっぽい。
指先を飾るバラの3Dアートが施されたネイルも、4万は下らなそうなファーつきコートも、きつすぎる香水の香りも、ねじくれた自意識の表れに見える。
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