フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第8話>
<8回目>
人間観察をして遊んでいると、ギャルのスマホが鳴った。1コール目で素早く取る。
「もしもし」
派手な見た目からすると意外なくらいに、ギャルの受け答えはしっかりしていた。
ホテルの名前が出てきたり、○○さんですかって名前を確認したり、じっと会話を聞いていれば、やっぱり風俗嬢だなってわかる。
ギャルはドーナツの粉が残るお皿とコーヒーの載ったトレーを置きっぱなしにすることなく、礼儀正しく棚に下げた後、ブーツのヒールをカツカツ鳴らして階段を下りて行った。
デニムのショートパンツからはみ出した、むっちりした太ももが目に焼き付く。
人のことを考えたって何にもならないのはわかってるけれど、先に仕事に向かう子を見ていると、いいなって思ってしまう。
特に、今日みたいに暇な日は。
このドーナツ屋さんに入ってもう2時間半、まだ仕事がついてない。年末年始の忙しい時期が終わってから、ドリームガールは不調だ。もっとも、どこの店だって一緒だろうけれど。
気分転換に携帯を手に取ると、娘の野々花からメールが来ていた。
お子様用の携帯を買ってやってから、野々花は24時間体制の保育園に預けている間、1日に何度もメールを送ってくる。
私の母は5才児に携帯を持たせることに猛反対していたが、メールの回数が重なるにつれてどんどん文章が上達していくし、今や小学校高学年レベルの漢字も使いこなせるぐらいなので、国語教育上は良かったんだろう。
そりゃあ、こんな夜中にまでメールしてくるのは褒められたもんじゃないけど。良い子はとっくに寝る時間だ。
『おしっこに起きてから、どうしても眠れなくなりました。今は、ゆうちゃんと一緒に、となりのトトロを見ています。眠れない時は、無理して寝なくてもいいんだそうです。お仕事がんばってください』
夜更かしを叱らなきゃと思っていたのに、文面を見るなりお説教の言葉が頭から消えていく。
暇で鬱屈していた気分が、野々花のメールのおかげでしゃっきりした。
我ながら親バカだと思う。子どもらしい可愛いメールを表示しているディスプレイの隣で、野々花が作ってくれたカラフルなミサンガがゆらゆらしている。少し網目の大きさが不ぞろいだけれど、5歳児にしては上出来だ。
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