フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第31話>
<31回目>
「ね。こんなこと聞いたら、気分悪くするかもしんないけど」
佳輝くんの目がすっと真剣になる。佳輝くんはものすごいイケメンというわけじゃないけれど、濃いめの眉も高い鷲鼻も、思春期の名残っぽくニキビが散らばったおでこも、絶妙なバランスで調和を取っていた。
「妊娠した時18歳だったんだろ? 産むの、迷わなかった?」
「迷ったよーそりゃ、最初は」
野々花の前では吸えないタバコに火をつけながら言う。タバコを吸う女を嫌う男が多い中、佳輝くんは『伊織ちゃんのタバコ吸ってるとこ、すげー恰好いい』と目を細めて言う。
「でも、恋して舞い上がっちゃってたんだよね。お父さんにすんごい反対されたのも、かえってヒートアップした感じだったし。産もう、一緒に暮らそうって相手に言われて、絶対ついていこうって思った。若かったんだよねー。
それで逃げられた時はもう堕ろせない時期に入ってて、産むしかなかった。いやもちろん、仕方なく産んだわけじゃないよ。お母さんが支えてくれて、おっきくなった野々花が内側からお腹蹴ったりして、あぁ、もう、こうなったらあたしは絶対この子に会うんだ、って」
「その逃げたやつとは、それっきり?」
うん、と煙を吐き出す。19歳で産んだ子どもがいることは、最初にここに来た時に、詳しい顛末はその次会った時に話していた。
佳輝くんはあたしがシングルマザーであることも、10代の頃に鉄パイプ振り回したり、クスリをやったりしていたことも、何を聞いても「へぇー」と目を見開くだけで引かない、奇特な人だ。
「もう二度と会わないんだろうね。会いたくもないし。あ、別に恨んでるわけじゃないよ」
「ひどい奴なのに?」
「ひどい奴だよ確かに。でもそいつがいなかったら、あたしは野々花に会えなかったしね」
「……ほんと、母親だよな。伊織ちゃんって」
笑顔であたしのすべてをあっさり肯定してくれる佳輝くんが嬉しくて、それと同じくらい心の片隅でとある不安が膨らむ。
あたしはまだ、風俗で働いていることを佳輝くんに言えていない。
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