フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第41話>
<41回目>
コートのポケットから携帯を引っ張り出すと、ため息が出る。
ディスプレイには『お母さん』。
今だけ携帯が壊れてほしいと思うぐらい話すのが億劫だったけど、鳴り続ける着信音がうるさくてしぶしぶ発話ボタンを押す。
「何よ、朝から」
『何よ、じゃないわよ。こっちが何よ、よ。なんなのその不機嫌な声。さては彼氏からの電話でも待ってたのねー。それでお母さんからだったから、がっかりしてるんでしょ』
「……そんなんじゃないし」
悔しいけれど、ぎくっとした。この人は時々妙に鋭い。野々花の勘がいいのはもしかして隔世遺伝なのか。
電信柱に背中を預け、話し込む体勢を取る。吐いた白い息が冷気に溶けていく。無遠慮な物言いしかできない人が相手でも、今は誰かと繋がっていたかった。
「てか、ほんとになんなの? こんな朝早くから。まさか何の用事もなくてかけてきたんじゃないでしょうね」
『そうだそうだ、言うの忘れるとこだった。お誕生日おめでとう、伊織』
頭の中で今日の日付を確認してしまう。
完全に忘れてた。今日であたしは、25歳になる。
誕生日に失恋したことに気づき、余計にむなしくなる。
しかもたまたま行った新規の客が、彼と同じマンションに住んでて入口ですれ違うなんて、天文学的な確率だ。悪魔に憑かれてるとしか思えない不運。
それか、どうせ上手くいかないんだから付き合うなっていう神様の思し召しかもしれない。こんな結果になった以上、悪魔も神様もないけど。
「やんなっちゃうな。もう25歳とか」
『何がもう25歳よ。わたしからしたら羨ましくってしょうがないわよ、まだ25歳じゃない』
「普通の25歳だったらね。でも、シングルマザーの25歳なんて、母親には若すぎて、女にしてはオバサン過ぎて、ものすごい微妙なのよ」
『……あんたさ。自分一人で頑張ろうとするのいい加減やめなさい。辛い時はお母さんでも他の誰かでもいいから、ちゃんと頼りなさいよ。母親になったから自分の人生楽しむ権利はないんだとか、そんなふうに思っちゃいけないの』
「はぁ? 何よ、それ」
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