フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第2話>

2014-08-20 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,006 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Rin フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<第2回目>

 

「わぁ、かわいいー!」

 

スカルプチュアで長方形に加工し、ピンクと赤のバラで飾り立てた完成品の爪を見て、愛想のあの字もなかった女がようやく顔を綻ばせる。

 

自分の仕事に対して、目の前の人がかわいいとか素敵だとかいう言葉で評価してくれる。ネイリストとしての充実感が最高潮に達する時だ。

 

「すごく春らしくなりましたね」

 

「うん、春らしいー。特にこのパールで作ったリボンとか、ちょーかわいいー」

 

「パール、取れやすいんで気を付けて下さい」

 

「気を付けるぅー」

 

施術中の無愛想な態度からは意外なくらいの、舌ったらずな甘い声。キメキメな夜の蝶メイクのせいでわかりづらいけれど、実は10代かもしれない。これだけ若いお客様もスカルプをやるお客様も、うちでは少数派だ。

 

女が愛しそうに撫でる3Dのバラは3週間、どんなに持っても1カ月で醜く剥げてしまう。花の命は短くて、なんて言うけれど、ネイルアートの命もまた短い。

 

時々、風俗の仕事もネイリストの仕事も似たようなものだと思う。

 

ニセモノの花を売り、ニセモノの愛を売る。ニセモノははかなくて美しくて、時に本物よりも人を魅了する。

 

「凛ちゃん、お疲れー。もう上がっていいよ」

 

壁の時計が21時を回った頃、受付カウンターの中で作業をしているとあけみさんから声をかけられる。

 

店長のあけみさんは数々のネイルの大会で受賞歴を持つ実力派だ。たぶんもう40歳を超えていると思うのに、肌も目もとも若々しく、笑顔はジェルで描くどんな花よりも素敵。こざっぱりした性格も気持ち良いい。

 

休憩時間の度に、あたしは安月給でこき使われる愚痴を、あけみさんは都内近郊で12店舗を展開する大手チェーンで店長を務めているのにそれでも安月給でごき使われる愚痴を、お互いにぶちまけまくってはジョークにして笑い合う。

 

 




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