フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第2話>
<第2回目>
「わぁ、かわいいー!」
スカルプチュアで長方形に加工し、ピンクと赤のバラで飾り立てた完成品の爪を見て、愛想のあの字もなかった女がようやく顔を綻ばせる。
自分の仕事に対して、目の前の人がかわいいとか素敵だとかいう言葉で評価してくれる。ネイリストとしての充実感が最高潮に達する時だ。
「すごく春らしくなりましたね」
「うん、春らしいー。特にこのパールで作ったリボンとか、ちょーかわいいー」
「パール、取れやすいんで気を付けて下さい」
「気を付けるぅー」
施術中の無愛想な態度からは意外なくらいの、舌ったらずな甘い声。キメキメな夜の蝶メイクのせいでわかりづらいけれど、実は10代かもしれない。これだけ若いお客様もスカルプをやるお客様も、うちでは少数派だ。
女が愛しそうに撫でる3Dのバラは3週間、どんなに持っても1カ月で醜く剥げてしまう。花の命は短くて、なんて言うけれど、ネイルアートの命もまた短い。
時々、風俗の仕事もネイリストの仕事も似たようなものだと思う。
ニセモノの花を売り、ニセモノの愛を売る。ニセモノははかなくて美しくて、時に本物よりも人を魅了する。
「凛ちゃん、お疲れー。もう上がっていいよ」
壁の時計が21時を回った頃、受付カウンターの中で作業をしているとあけみさんから声をかけられる。
店長のあけみさんは数々のネイルの大会で受賞歴を持つ実力派だ。たぶんもう40歳を超えていると思うのに、肌も目もとも若々しく、笑顔はジェルで描くどんな花よりも素敵。こざっぱりした性格も気持ち良いい。
休憩時間の度に、あたしは安月給でこき使われる愚痴を、あけみさんは都内近郊で12店舗を展開する大手チェーンで店長を務めているのにそれでも安月給でごき使われる愚痴を、お互いにぶちまけまくってはジョークにして笑い合う。
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