フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第11話>
<第11回目>
これではいけない、と気づいたのは26歳の時。
ホテヘルの待機室でメイクを直していたら鏡に映る自分の顔が母親にそっくりなことに気付いて、右手に握っていたアイライナーが手から滑り落ちた。
傍にいた店の女の子にどうしたの、と驚いた声で聞かれても、しばらく何も言えなかった。
もう何年も母親に会っていない。
母親……、なんて言い方からして、そもそも変だ。あの人はただあたしをこの世に産み落としただけで、一度だって母でも親でもなかったんだから。
でも、気づけばあたし自身、母親とすごく似た道を歩んでいた。そして、このまま歳を取っていけば、あの人と同じような女になる。それだけはまっぴらだと思った。
26歳にして人生で初めて真面目に進路を考え、選び取った道はネイリスト。
10代の頃から自分の手で爪を飾ることを趣味にしていて、完全に自己流だったとはいえ、友だちからは「わたしにもやって」とせがまれるほどの腕前だった。
一度決めたら、後はさっさと行動に移す。ドラッグをやめ、服や化粧品やブランドバックに好きなだけお金を使うのをやめ、海外旅行に行くのをやめた。
冨永さんに出会ったのは、貯めたお金でネイルスクールに通っていた27歳の時だった。
五反田に事務所を構えていたその店は、あたしが勤めた中では数少ない、本番がない普通のデリヘルだった。
もちろん、個人で勝手に裏取引をして稼いでいる子はたくさんいたけれど。
とはいえ本番をしなくても仕事になるというのは、女の子にとっては大きなことで、ドリームガールみたいにきつい無料オプションもなかったから、長く働いてる子が結構いた。
ドリームガールと同じく車待機の店だったため、女の子同士の交流はほとんどなくて、人間関係といえば店長との電話連絡と、ドライバーさんと少々話す程度。その辺りのシステムはドリームガールによく似たデリヘルだったけど、ドリームガールと違うのは昼の12時から営業していたこと。
あたしはネイルスクールのスケジュールに合わせ、昼間の出勤と夜の出勤とを組み合わせて働いていた。
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