フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第13話>

2014-08-31 20:00 配信 / 閲覧回数 : 932 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Rin フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<第13回目>

 

警戒していたというよりは人見知りな性格のせいで、冨永さんとまともに会話したのは入店して1カ月ほどが過ぎたある日の車内でのこと。

 

仕事に向かう途中、お釣り袋を受け取った時だった。

 

「それ、グレムリンですか?」

 

何を言われているのかわからなくて、固まってしまう。

 

冨永さんは既に前に向き直り、ハンドルを切っていた。

 

「その、左手の人さし指に描いてあるやつです」

 

「グッ、グレムリン!? ちっ違いますよ、チワワですよ!!」

 

ちょっと怒っていた。だって、ネイルスクールでみんなに褒めてもらった、自身最高傑作のチワワの顔だったのに。

 

「似たようなもんじゃないですか、グレムリンもチワワも」

 

「全然違います!!」

 

「それ、マニキュアで描いたんですか?」

 

「マニキュアじゃなくて、ジェルネイルです。普通のマニキュアは、塗ったら塗ったそばから固まってくけど、ジェルネイルはライトを当てて固めるから、ライトを当てるまではやり直しができて……。でもこのチワワは、絵の具ですけれど」

 

「なんだかよくわかりませんが、とにかく、はるかさんは絵が上手いんですね」

 

それまでも、何度だって呼ばれてたはずなのに、仕事上のやり取りを超えた会話のせいか、風俗デビューした18歳の頃からどの店でもずっと使ってきた源氏名が、意味深な響きを持つ。

 

今思えば、あたしはろくに話したこともなかったこの頃から、冨永さんに惹かれていたんだろう。

 

人柄はわからないまでも、全身から滲み出る雰囲気、穏やかなテンポで紡がれる言葉、そういうものに……。

 

 

 

 




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