フェイク・ラブ 最終章〜Rin〜<第14話>
<第14回目>
「冨永さんは動物が好きだから、動物に反応するんですね」
「何で知ってるんですか? 俺が動物好きだって」
本気で驚いたらしく、いつもは居眠り中の寝言みたいにゆったりしている声が、にわかに早口になる。
「だってよく、ハトにエサやったりしてるし」
「見てたんですね」
「見てますよ。いけないんだ、ハトにエサやったら。ちゃんと看板に書いてあるのに」
「あの看板は陰謀です」
「陰謀? 誰の? 何の?」
ほとんど初めてちゃんと話したのに、ずっと前からの友だちみたいにスムーズに流れる会話のキャッチボール。
きっと、お互いに興味を持ってたんだ。
話せないけど、話したくてたまらなかったんだ。
「ハトはね、神の使いなんです。キョロキョロ首を動かしながら歩くでしょう、あいつら」
「そう言われれば」
「でしょう。あれはああやって、1人ひとり、いいことしてるか悪いことしてるかを、見張ってるんです。人間を見張って、神様に報告するんですよ」
「へー」
「だからハト相手に善行を施す、すなわちエサをやれば、神様の心象がよくなります。天国に行けますよ。というわけなので、ハトにエサをやるなって看板を立てているのは、みんなを天国に行かせまいとするやからです。天国も最近人口が増えすぎましたからね」
「何それっ」
久しぶりにお腹を抱えて笑ってしまった。
笑わせようとも、口説こうともしてるんじゃなくて、ほんとに楽しそうに冨永さんが話すもんだから心おきなく笑えた。
仕事場所は足立区。車は港区を出たばかり。到着までにはまだまだ2人の時間がある。
本番もきつい無料オプションもメニューにない代わりに、暇な店だったので、2人が気持ちを通わせるには十分な時間があった。
2人きりの待機の時は、車の中で、他の女の子がいたら外に出てタバコを吸いながら、少しずつ心を寄り添わせていった。それは2人で1枚の大きな絵を完成させるような、時間のかかる、でもとても楽しい作業だった。
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